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 外務長官は質疑項目が複数あるため自分に一定時間を与えてくれるよう神、元老院、そして内閣官房長官の承認を得てから質疑を開始した。
 彼は上映順、即ち教室、シーズヒル、留置場の順に項目を上げていった。
「世界王を襲った銃弾は特殊なものだという事ですが、それは一体何ですか?」
 これは予定調和の質問だ。
 銃弾の正体は既にコルドに報告してある。故に彼がこう言うのは、この場に居る者たちにも周知させようという事だ。
 キリアンもそれは理解しているし必要だとも思うが、何も最初からこんな試練を与えてくれるなというのが本音だった。
 切り裂かれるような視線を感じる中、平常心を装って返答する。
「ゴルデワ政府の公式見解を申し上げます。十一日昼過ぎ、世界王北殿の右腹部、そして西殿の左肩に打ち込まれたのはイトラの改良型であると断定致しました。
 イトラというのは内部にコルニトレチンという猛毒を仕込んであり、着弾すると衝撃と発射による熱伝導で内部のカプセルが壊れ毒が流出する、ゴルデワでも非常に特殊な弾丸です。
 今回は猛毒の代わりにフェムトマシンと細菌を同梱してあり、従来の物より一回り大きいものでした。症状は今ご覧頂いた通り肉体の主権のジャック及びヴァンパイア化です。
 ただしヴァンパイア化についてはあくまで吸血衝動があるという点のみで、ヴァンパイア種のように犬歯関節が出来る訳ではありません」
 キリアンは再び照明を落とさせると手元の端末を操作し、映像を頭から再生させ直ぐに早送りした。通常再生されたのは北殿が意識を回復させた僅かなショットである。
 血に汚れた床の上に転がった小さな機械が通信ホログラフを表示させている。キリアンはホログラフの男の顔がよく分かる瞬間を選んで映像を一時停止させた。
「この男は五大王政権時の科学者です。もう一人名前が挙がっていますが、それも同時期の化学者です。調査の結果、先代政権当時今の北殿とこの二人は大変親しくしていたことが判明しました。この会話は、それ故のものですね。
 我々は、イトラ改良型の製作にこの両者が携わったと断定しました」
 映像静止画の上にホログラフの男と、もう一人若い男の顔写真が表示される。
 解説が終わったと判断したコルドは再び質問に移行した。学校箇所で更に質疑応答を交わし、話題はシーズヒルへ移行する。
「『隊長』の行方が依然不明のままですが、どのようにお考えですか」
 この視覚映像のおかげで初めてその顔が分かった「隊長」だが、同時に問題も浮上した。
 シーズヒルや武装集団からの残留記憶から読み取れた「隊長」の外見は、ゴルデワの、少なくとも戦闘職種に関わる者たちにとっては馴染みのある容姿だったのだ。
 精悍な顔立ち、短い黒髪、細身の体。
 三種汎用型義体、CECORE−404LL型。
 全身義体を使っている以上、この「隊長」はゴルデワ人と確定したのだが、一刻も早く逃げたいのなら使う筈の次元口が開口した痕が何一つ見つからないのだ。紅隆らが塞げなかったシーズヒルは勿論、現在把握している各所全て。
 つまり本当に民衆に紛れているという事だ。しかも義体なら乗り換えることが可能だから外見が全く当てにならない可能性も高い。
「誠に由々しき事態だと受け止めております」
 上がった野次を無視しコルドは質問を続ける。今は査問会ではない。ここであの秘書官を糾弾したところで答えなど出ないし、満足するのは野次を飛ばす連中の自尊心だけだ。
 それからコルドは十五分ほど使ってキリアンとやり取りをすると「私からは以上です」と告げて係員にマイクを返し着席した。
「他に、どなたかご質問はありませんか?」
 最初の映像で萎縮してしまったのか外務長官の質疑だけで足りたのか、会場からは他に手は上がらなかった。





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