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 休憩も挟まず凡そ七時間続いた映像が終わる。
 キリアンは照明を点けさせ再びマイクを取った。
「皆様、ご清聴ありがとうございます」
 これだけの人数がいるにも拘らず、本会議場は水を打ったように静まり返っている。無理もないと思いながら質問はないかと呼びかけた。
 それを契機にさざ波のようにざわめきが広がる。元老院席で立ち上がった者がいた。
 ピーター・レニングスである。
「貴様、我々を呼びつけておいてこんな出鱈目を見せるとは何事だ! ゴルデワ政府は一体どこまで我々を虚仮にすれば気が済むのだ!」
 マイクも使わず張り上げた声は本会議場全体に行き渡った。その一喝で、絶句していた人々も息を吹き返す。
 その一言で場内の空気が一斉に不審の色に変わったのがキリアンには手に取るようにわかった。
「これは出鱈目ではありません」
「紅隆の首が落とされているじゃないか! なのに生きているのが何よりの証拠だ!」
 同意を叫ぶ声がそこかしこで上がる。キリアンの溜息をマイクが拾った。
「最初にご説明しましたが、この映像は世界王南殿の感応能力で得たものです。改竄の疑いを避けるため、解析後直ぐに神にお渡し、自らこの本会議場まで運んで頂きました」
 係員がレニングスにマイクを差し出す。
 紅隆に豚と揶揄された元老院はそれを奪い取って叫んだ。
「提出する前に幾らでもいじれただろう!」
 余りの音量にスピーカーが悲鳴を上げる。キーンと耳障りな音が収まってから、キリアンが落ち着いた調子で反論した。
「先ず、映像の改竄が無かった事は私の命を懸けて補償いたします。紅隆が何故この状況で未だ生きているのかというご質問ですが、それは彼がハルニードの生まれだからです」
 これにはさしものレニングスも直ぐには切り返せなかった。何だそれは、という空気を察しキリアンが続ける。
「現在、我々が確認している時空を接した世界は四つあります。まずこちらサンテ、我々のゴルデワ、ヴィレ、そしてハルニードです。ハルニードには二種類の人間が居り、不老不死に近いキュラルと呼ばれる上位種、そしてフーファーという非常に短命な者たちです。紅隆はこのキュラルに生まれました。
 キュラルも体の構造組織は我々と何ら変わりません。けれど物理的に命の定義が全く異なり、脳や心臓が停止しても死ぬことはありません。事実、紅隆は過去に体が細切れになったり頭が吹き飛ばされたりしていますが、今もこうして生きています。首が落とされただけでは彼の命に何ら影響はありません。どちらにしろ倒れてはいたと思いますが、今回あのタイミングで気を失ったのはカウンタラクティズの気に当てられたためです」
 言葉を失くしていたレニングスが耳慣れた単語に息を吹き返した。ロブリー! と叫ぶ。
「あの男の素性は本当か!?」
 厚生労働省員の一団の中から指名されたフィーアスが立ち上がる。マイクを受け取り事実だと答えた。
「……お前っ、いつから知っていた!?」
「結婚の話が出たとき、本人に打ち明けられました。自分はこういう出自で過去に悪いことを沢山してきたから貴女とは結婚できないと。――このことは当時内閣府にも報告した筈ですが」
 聞いている、と内閣官房長官が添える。
 ヴァルセイアとレニングスとの間で暫し視線のやり取りがあったが、頃合いを見てキリアンがマイクを取った。
「この映像が正真正銘、あの日起こった出来事であるとお解り頂けたでしょうか。――他にご質問はありませんか?」
 手を上げて発言を求めたのは外務長官のコルドだった。彼はマイクを受け取ると負傷した世界王の容体を尋ねた。
 事件から僅か五日である。被弾は元より、一時心停止までした北殿は言わずもがな、西殿もまだ意識が戻っていない。
 それを聞いたコルドは神二人に向き直る。





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