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 この場において、アーレンスは内閣官房府の代表だ。
 その代表が、サンテ政府で二番目に規模の小さい外務庁の一般職員に遣り込められている。
 アーレンスにも言いたいことはあるのだろう。けれど彼の唇はぶるぶる震えるばかり。対して長広舌を披露したアリシュアは特に気負った様子もなく平然と相手の返答を待っている。
 まるで大人と子供のようだとコルドは思った。
「…………が……外国勢力に対する防衛はそもそも外務庁の主導だ。内閣に責任を擦り付ける前にやるべきことをやってこなかった己の不遇を恥じるべきじゃないか」
「外務庁は何度も、次元口への対磁力場工事を提案し政府に要求しています。今の神、特にルイは故郷がゴルデワ人の不当侵犯の末半壊したという経歴の人ですから、不法入国者を許す次元口の閉鎖作業に不満を言う筈はありません。それを、費用を理由に神に届く前に握り潰しているのは元老院と内閣です。何でしたら証拠をお出ししますよ?」
 最初に冷罵したのと同一人物かと疑いたくなる程アリシュアの口調は物柔らかだ。しかしその内容が態度とまるで咬みあっていない。それが余計にアーレンスの口を強張らせていく。
「……いや……しかしそれは……」
「勘違いしないで頂きたいんですが、私は何も内閣にこの責任を取れと言っているのではないんです。これからどうするのか、という事を間違わないでもらいたいだけなんです。この場合の間違いとは、ゴルデワに対して恐怖や怨恨の意識しかない国民に向かって「元老院が狙われた」などと声高に言って徒に民意を刺激することです。
 次元口は何処にあるのか分かっていない物の方が多い。もしかしたら民家の中に突出ポイントがあるかもしれないのです。そんな事が外に知れたら、ゴルデワ人を恐ろしい連中だと思っている国民は安心して暮らしていくことは出来なくなってしまいます。それを防ぐのが我々政府の役割であり、外務庁の仕事です。内閣はそれを妨げないこと、援助すること。簡単でしょう?」
 ここは、その簡単なことが通らない政府なのである。
 何かにつけて慣例慣例。世界王紅隆が何を言っても「審議中」と返す政府だ。自分たちで作り上げたぬるま湯の中で生きて来たので突発的事象に弱い。教育に関しても、過去の悲惨な歴史は教えても、ではこれから自分たちはどうすべきかの論議はないのだ。
 大門が閉じている。それだけで安心してしまう。
 アリシュアの横顔は微塵も揺るぎない。
 コルドはどうしても、この部下の自称兄であるカーマの言葉を思い出さずにはいられなかった。――何も起きなかったという結果が同じでも、その過程で何も無かったことと同義ではない。
「で……ではどうしろと言うのだ。何処にあるかも分からないものを探すだけでも大事だ。それを全部潰すといっても、どうしたら塞げるのか、その莫大な費用を何処から捻出するのか――その問題をお前は解決できると言うのか」
「まずクレウスが使用した次元口の場所、そして仲間の有無を吐かせること、内閣はその間に磁力場工事を一件執り行えるように書類を整えること、更に当日確実に防衛庁を出動させ工事現場の警戒に当たらせること、そして出動する機動隊の装備を第一級非常事態に備えて一新させること。方法は昔の資料を引っ張り出せば見つかります。一件くらいなら費用もそう多額ではないですから財務省の承認も下りるでしょう。何せ事は国を揺るがす一大事ですから、それでも渋るようなら「ゴルデワ人の思惑に加担するのか」とでも言ってやればいい」
 アーレンスは頬を引き攣らせて僅かに俯く。一件でも工事を認めてしまえば次も許可を出さざるを得なくなってしまう。けれど現状他に打つ手も見当たらない。
 唇を噛むことで無念を表明した。





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