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 アリシュアはまず内閣からの客人に落ち着くよう指示した。コーヒーを持ってきてやり、飲むよう命じる。
 この男がその辺の人間なら殴り飛ばして黙らせるのだが、如何せん彼は内閣官房府の指示で此処へ来ている。内閣では彼の報告を今か今かと待っているに違いないが、その報告は正確でなくては困るのだ。
 彼の偏見に満ちた言葉が、政府の方針を定める物であってはならない。
「数時間頂きながらこれしか得られなかったのは非常に心苦しくありますが、聞き出せたこの少ない情報からでも読み解けるものは十分にあります。まず第一に、今件に世界王政府が関与していない可能性が高いことです」
「馬鹿な!」
 噛み付こうと身を起こしかけたアーレンスの顔面にアリシュアは持っていたバインダーを打ち当てる。何をすると叫ぶので
「さっきからキャンキャン喧しいんだよ、黙って聞いてろハゲ」
 アーレンスはまるでハトが豆鉄砲を食らったような目で、自分に対して暴言を言い放った女を見上げた。その表情のまま女の上司へ顔を向けると、コルドも似たような顔をして部下を見ている。
 アリシュアはアーレンスの向かいに腰を下ろす。コルドに許可も得なかった。
 そして何事も無かったかのように話し始めたのだ。
「そもそも、このクレウスなる男は当の昔に儀堂から離れています。訓練期間中に退職、という事は当局が求める技能に達していないという事です。我々の感覚で言うなら候補生でしょうか。城側もしくは儀堂側がわざわざそれを探し出して実行犯に任じたと考えるのは非合理的です。また、月陰城と儀堂は基本的に対立関係にありますから、この二者が協力して我が国に対して何かをするなどという事も高確率で無いと断言できます。
 ゴルデワ政府が関与していないにも関わらず我が国への不法入国者が出たという事は、裏に我が国や次元口に関する知識を持った者が関与しているという事です。
 ゴルデワは我が国と違って民間への外国知識の教育をしていませんのでこの知識を持つ者はゴルデワ政府の関係者に絞られます。けれど政府関係者は安全管理上外部の者に中の情報を開示することはありません。そうすると、サンテに対する知識を持っていて且つジオの規約に縛られない者――先代世界王政権時要職に就き、政権交代の折に退城した者となります。
 しかし退城者には多額の口止め料の給付と監視員が付きます。その目を掻い潜ってまで悪巧みをしたという事は確固とした目的意識があった筈です。
 その人物を首謀者と仮定すると、クレウスのような中途半端な人間は捨て駒に過ぎないことが分かります。
 その半端者すら侵入させてしまったのは我々政府の防備が全く不足していたからに他なりません。今回、何度要請しても防衛庁は動いてはくれませんでしたが、理由を尋ねると「出動には許可が必要だ」と言われました。その許可を出すのは内閣官房府です。
 ――以前、世界王が予告なくやって来たときは真っ先に出動していましたが、調べてみるとあの時出動要請を出したのは元老院だったそうです。今回はその元老院が危険に晒されたにも拘らず「許可が出ていない」とは笑止千万。もしゴルデワ政府が本気で我々を討とうとすれば真っ先に狙われるのは神です。その神を人質に取られたとき、内閣は「神の許可が無いから出動できない」で済ませるのですか? 例え殺されても、ゴルデワを恨みながら新たな神を起てればいい……などという考えなのでしょうか。
 ゴルデワ人の不法侵入者が出た程度で政府が大慌てするていたらく。この事実を国民に開示するべきだと言う意見が出ていますが、そんな事をすれば国土はパニックに陥ります。
 その辺のところ、内閣はどうお考えですか?」
 アーレンスはおよそ一分間、絶句していた。





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あきゅろす。
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