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 事件が起きたのはそれから五日後、十日の昼過ぎのことだった。
 雨が続いたせいでせっかくの晴れの日が蒸し暑くなってしまい、宮殿内では冷房がフル稼働している。
 外から帰って来た者は一様に蒸し暑さにぐったりしており仕事どころではない。外務庁では定時後三時間以内というノルマがあったが、それでも仕事に手を付けられるものは少なかった。
 休憩室の自動販売機の周りに屯する者も多い。アリシュアも限界を訴えたファレスに請われてやって来たが、その人口密度に辟易し、自分の分をゴミ箱に投下すると紙コップ片手に至福の表情を浮かべている部下を急き立てた。
「今日中にまとめなきゃいけないんだから」
「ちょっとくらい大丈夫ですよ〜」
 もう一杯、と列に並ぼうとする首根っこをひっ捕まえてぎろりと睨む。
「お前の仕事だろう?」
「………………はーい」
 今月に入って露骨に仕事の増えたアリシュアは、もう一切合切を諦めて先に自分の仕事を片付け、それから定時までの時間をファレスの補佐に費やしていた。そうでもしないとこの男は明日の朝までかかるのだ。
 第一執務局に在籍しながら外回りまで付いて行ってやらなければならない部下の情けなさに涙すら滲む。
 やることは沢山あるのだ。のんびりしている暇はない。
「先輩先輩、その前にほら、これ届けないと」
 外局から預かって来た書類だ。これを内閣府に提出しなくてはならない。
「それくらい一人で行きなさいよ」
 子供じゃないんだからと言うと、ファレスは明らかに困った顔をした。
「……あそこ、オレじゃ敷居が高くて……」
「…………」
 渋々付き添ったもののアリシュアだって内閣府は嫌なのだ。
 無事提出し何事も無かったかと胸を撫で下ろす。それはファレスも同様だったようで「いや良かったぁ」と力の抜けた声で言った。
 それは本宮ロビーの階段を下りていた時だった。
 耳鳴りに似た甲高い音が宮殿中を駆け抜けた。何だ? と思う間もなく轟音が鳴り響き、床が激しく上下に揺れる。
 アリシュア達はもとより、階段に居た他数名はバランスを崩して転げ落ちてしまった。
 受け身の取れなかったファレスは顔面を強打したらしく鼻血を垂らして痛がっている。
 揺れは治まる気配がない。
 アリシュアは同じように倒れ込んだ人々を抱き起しながら天井を見上げた。
 ロビーの天井には巨大なシャンデリアが吊り下げられているが、それが大きく揺れていた。その下に何人かしゃがみ込んでいる。
「危ない! そこから離れなさい!!」
 言われた方も自分たちの危機的状況が分かったのだろう、立ち上がることが出来ないので這って壁際まで後退する。
「……地震……?」
 近くの者と手を取り合ってじっと身を潜める。揺れが治まったのは何と五分も経ってからだった。
「怪我人はいる!?」
 真っ先に立ち上がったアリシュアが声を張り上げる。幸いにも擦り剥いた程度で大きな怪我をした者はいなかった。
「ぜ……ぜんばい……、だいりょうじゅっげつかんじゃがごごに……」
「鼻血くらいで喚くな。ほら行くぞ、さっさと立て」
「え……、何処へ」
 アリシュアはほとほと呆れた。この男は変なところで抜けているのだ。事態を呑みこませるように殊更ゆっくり、強弱をつけて言う。
「被害状況の確認に決まっているだろう。これだけの揺れだ、市街地だって何かしら被災している筈だ」
 それでもファレスは懐疑そうにアリシュアを見上げている。
「え……でも、それって外務庁の仕事じゃないんじゃ……」
 余程顔面を蹴りつけてやろうかと思ったが、アリシュアは舌打ちで我慢した。しゃがみ込んで顔を寄せる。大きな声では言えなかった。
「私らの仕事は、これがゴルデワからの攻撃でないか確認することだ」
 一瞬フリーズしたようだが、事態を理解したファレスは大きく頷いた。





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あきゅろす。
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