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 昨夜が遅かったのもあってフィーアスが目を覚ましたのは昼前だった。
 枕元の目覚まし時計が差すとんでもない時刻に一気に眠気が吹き飛んだ。お蔭で下の子供たちの機嫌が悪い。起こしてくれてもよかったのにと零すと、昼食の支度をしながらワゼスリータが言う。
「お父さんが寝かせておけって」
 よりにもよって寝坊の失態を夫に知られているらしい。フィーアスは眩暈を覚えて額を押さえた。
 子供たちとは、晴れたら外に遊びに行こうという約束は随分前からしていた。昨夜は天気予報まで見て今日の晴れを確認していたらしく、いそいそと寝入りわくわくしながら起きたのに、肝心の母親は呼んでも揺すっても起きない。業を煮やして連れてきた父は逆に子供たちを窘めたという。
 つまり寝起きの時にとんでもなくぐしゃぐしゃだったあの頭を夫に見られたという事だ。恥ずかしさのあまり足が縺れ、食卓に腰を激突させてしまった。物凄く痛い。
 下の子供たちを宥めすかしながら昼食を終えた頃、エテルナがやって来た。
「あまりにも気持ちよさそうに寝ていらっしゃったもので忍びなくて」
 先制謝罪されては不満も言えない。自分が100%悪いのだから仕方ないと恨み言を飲み込んだ。
 片付けを引き受けてくれたエテルナに後を任せ支度を整えて出発する。本当はもっと遠出をと思っていたのだが、午後一の出発ではそれも難しい。車を走らせた先は市内でも大きな公園である。
 公園と言ってもさほど遊具がある訳ではない。緩やかな起伏のある広々とした芝と、一角には噴水があり屋台が並ぶ。
 途中ワゼスリータが交代してくれたものの、基本デスクワークのフィーアスとエネルギーの有り余っている幼児二名とでは勝負になる筈もなく、露店で売っているアイスクリームをエサにフィーアスは芝生からの脱出に成功した。
 食べきる前に溶けてしまうのを考慮してカップアイスを四つ買い求め、手近なベンチに座る。噴水を囲むようにぐるりと配置されたベンチには同じように休む者たちが座り、彼らを相手に大道芸人たちが自らの芸を披露している。
 フィーアスたちの右前方にはカップルを相手にピエロが曲芸を行っている。それが目に入ったのだろう、ゼノズグレイドはアイスを掬ったスプーンを持ったままそちらに見入っている。溶けるよと注意してようやく口に含んだ。
「あれ、フィーアス?」
 そう声を掛けられたのはゼノズグレイドのカップの中身が半液状になった頃だった。振り向くと、露店販売している飲料を三つ抱えたイリッシュが立っている。縁の広い白い帽子が眩しい。
「……もしかしてお子さん?」
 半ば躊躇いがちだったのは父親が誰か知っているからだろう。財務省員ではゴルデワ側と接触する機会はまず無い。
 そうだと答えると長姉に口を拭かれていたロゼヴァーマルビットが地雷を踏んだ。
「おばさん、だれ?」
 慌てたワゼスリータに直ぐに口を塞がれたが、遅い。帽子で陰になっている筈の目元がぎらりと光った。
 イリッシュはにっこり微笑んで小首を傾げると「お姉さんはね」とそこをかなり強調する。
「ママのお友達なのよ」
 慌てて謝る。
「ああ、良いのよ。子供の言う事ですもの」
 目が笑っていない。
 確かイリッシュには恋人がいた筈である。デートかと尋ねると苦笑いが返ってきた。
「今日は応援」
 イリッシュに導かれて向かった先は、元居たベンチから噴水を挟んでちょうど反対側だった。そこでも大道芸人たちがパフォーマンスをしていたが、一人だけ様子が違う。他の者のように扮装していたり小道具を持っていたりはせず、Tシャツにジーパンという至って普通の恰好の男が発声練習をしていた。
「私の彼」
 燦々と照りつける日差しが熱いのか、それとも衆目に晒されている為か彼の顔は真っ赤だった。





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あきゅろす。
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