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 ここ数日、キースレッカと連絡が取れない。
 先日の話の続きをしようとしても端末の電源が入っておらず、ホテルへ押しかけても出かけているというし、まず間違いなく、これはランティスの差し金に違いなかった。
 あの日あっという間に昏倒させたのを根に持っているのだ。ホテルのロビーまで運んでやったのに生意気である。
 二日過ぎ、四日過ぎ、あれからとうとう一週間。
 アリシュアは硬く決意した。ランティスは抹殺刑だ。
 キースレッカは帰郷の期日を「来週末」と言っていた。今日は木曜。来週末とはいつのことだ? 明日? 明後日? 
 殺気立っているのは自覚しているが抑えきれない。
 この二、三日は第一執務局でもまるで腫物を触るような扱いだが、一人だけ全く気付いていない馬鹿がいる。
「先輩、見捨てないで下さいよぉ……」
 帰ろうとするアリシュアに取り縋るのはファレスだ。キースレッカに今日何度目かの連絡を入れようとしていたところだったので端末を耳に押し当てながら腰に纏わりつくそれを冷たく見下ろした。
 コール音が続く。開いている左手で部下の髪の毛をむんずと掴んだ。
「!?」
「……ファレス……私は今とっても機嫌が悪いんだ。お前が離さないっていうなら、このまま毟り取ってやってもいいんだぞ……」
 すると部下は静かに離れた。
「お前の仕事が遅いのは手順が悪いからだ。もっと効率を考えて動きなさい」
 はい、とか細い返事に頷いてアリシュアは通常通り帰宅した。その間、コール音が止まることはなかった。
 流石に脅しすぎたと反省して翌日は自分の分と並行してファレスの仕事も手伝う。
 昨日言ったようにただ効率が悪いだけなのだ。そこさえ改善されればアリシュアのようにとはいかないまでも連日深夜までの残業という悲惨なことにはならない筈だ。
 今日は外回りもなかったため殆ど付きっきりで午前が過ぎた。ファレスが唸っている間に疾風の如く自分の仕事を片付ける。
「……先輩、どうしたらそんなに的確に処理できるんですか?」
 と訊いてきたので手を動かすよう叱ってから経験値の差だと答えた。「経験値」と鸚鵡返しする部下をもう一度叱ったときだった。
 同僚に客だと言われ振り返ると、入り口のところにキースレッカが立っている。
 アリシュアは弾かれたように勢いよく立ちあがった。もう部下のことなど頭から飛んでいる。
「キース!」
 突進するように駆け寄るとキースレッカとの間に割り込む男がいた。勿論憎きランティスである。
 アリシュアは勢いをそのまま右足に乗せて男の足目掛けて繰り出した――が、なんと敵は小癪にもすんでのところでそれを躱す。
「何しやがる!!」
「こっちの台詞だ馬鹿! お前、私からキースを取り上げていったいどういうつもりだ、この馬鹿!」
 叫びながらキースレッカの左腕を抱き込む。すると負けじとランティスも右腕で同じようにした。
「取り上げる、なんて何様のつもりだ? 親でもない癖に偉そうなこと言うな!」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる。クウインドがいたらお前なんかこの子の側にも寄れないんだからな!」
 すると相手は鼻で笑った。
「寄れますぅー。あいつはそんな狭量じゃねーよ。あのミトスとデキた時点で証明済みだろ」
「あの、ってどういう意味だ! ミトスが扱い辛いみたいにな言い方するな!」
「そうは言わんが、あの取り澄ました顔見てるとたまにイライラしてくるだろ?」
「お前のアホな感性でものを言うな!」
「様子を見てきてやった恩人に向かってアホとは何だ」
「アホにアホと言って何が悪い。歌しか取り得がないからいつもピーヒャラ歌ってばっかの能無し風情が偉そうなこと言うんじゃない!」
 ずっとタイミングを計っていたのだろう、恥ずかしいから止めてくれとキースレッカが叫んだのがこの時だった。





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あきゅろす。
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