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激しい音が隣室から聞こえた。明らかに破壊音である。
次いで、悲鳴。
「ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア──────!!!!!!」
ガシャン!と何かが割れる。
その部屋に続くドアは閉ざされたまま。無論鍵など掛ってはいない。しかし誰一人として中に入ろうとする者は無かった。
悲鳴と破壊音が暫く続くと、今度はそこに泣き声も加わるようになる。
子供のような激しい泣き方、嗚咽、啜り泣き、これらの違いはあったものの起きている日は毎日毎日、彼女はこれを続けていた。
そのうち力尽きて気絶すると、控えていた看護師が部屋に入り改めて睡眠薬を射つ。ストレッチャーに乗せられ、そのまま医療棟に運ばれていく。
そして彼女の一人息子は、憔悴してボロボロになった母親を冷ややかな視線で見送るのだ。
「……いっそ一思いに死なせてやれば良いのに」
少年がそう呟く度、俺はその顔をひっ叩いていた。しかし今はもう注意する事すら止めてしまっている。
何度殴っても止めないというのもあったが、次第に自分でもそう思うようになってしまったからだ。
こんなに苦しんでいるのなら、死んだ夫の元へ行かせてやるべきなのかもしれない、と────。
誰もがきっとそう思っていただろう。けれども踏み切れないのは、立ち直って欲しいというエゴによるものだ。
長い長い間、一緒にやってきた。互いに良いところも悪いところもみんな知っている。
乗り越えて欲しい。
自分達は何よりも柔軟で堅固な筈だ。これまでにも沢山の分厚く高い壁を5人で乗り越えてきた。今度だって、きっと────。
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