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パワーストーン物語
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私達の出会いは不思議だった。
大学に通いながら貧乏アパートで暮らしている彼と、同じく大学に通いながら本屋でバイトしている私。
共にお金とは縁がなく、田舎からの仕送りだけをあてにして生きて来た。
でもいくら若いとはいえこんなに毎日に追われていては恋の一つも出来やしない。
その上器量が特別良い訳でもなければ、尚更素敵な恋とは縁遠くなるに違いなかった。
尚美は実家にいた頃、ゲームのやりすぎで視力も低下してしまったが高価なコンタクトレンズには手が出ず、未だ流行遅れのダサダサの銀ぶち眼鏡をかけ、入荷したばかりの本を整理していた。
「あっ!これはファイナルクエストの攻略本!!」
尚美は実家を出るギリギリまでこのRPG(ロールプレーイングゲーム)「ファイナルクエスト」のラストバトルのボス...この最後に出て来る悪玉モンスターを倒さない限り、このゲームを最後までやり遂げた事にはならなかったというのに、何度挑んでも尚美の力ではどうやってもこのゲームをクリアする事は不可能に近く、あきらめた尚美は実家にすべてのゲームを置いてアパートには持ってこなかった。
その尚美因縁のゲーム、「ファイナルクエスト」の詳しい戦い方や歩き方などが細かく記された攻略本が今日ついに発売されて店頭に並ぶ事になっている。
でも、もし、これを購入してもゲーム類はすべて実家に置いてきてしまったからラスボスを倒す方法が分かっても意味がないようにも思える。
しかし、思ったよりも入荷が少ない。
尚美は悩みながらも台車にその攻略本や他の新刊を乗せ、店内へとやって来た。
並べるとまたほしい衝動にかられてしまい、その衝動を押さえるために「私は無駄なお金は一円たりとも使えない貧乏学生なんだ!」と自分に言い聞かせた。
店が開くとまず小学生が母親にその本を買って貰う為に一番にやってきた。
あの男の子もたぶん尚美と同じでラスボスに殺られたくちだろう。
次に買って行ったのは少し太ったサラリーマン風の男だった。
「だんだん本がなくなっていく...あと3冊しかない...こんなに分厚い本だからきっと凄い内容なんだろうなぁ...」
尚美は本が売れる度、名残り惜しい気分でお客を見送った。
本を買うとみんな早足に帰って行く。
きっと家に帰りすぐにあの本に載っている事を試すに違いなかった。
なんでゲームをすべて実家に置いてきたりしたのだろう...


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あきゅろす。
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