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パワーストーン物語
I
すると困った顔のローズに気付いたのか、それとも子供の頃から見せていた優しさからローズの心配や両親の気持ちを気遣ってくれたのか、ローズに自分の隣に座るよう促してくれるのでした。
ローズは慌ててエプロンを外し、初めて間近に見た時よりも一層深く顔色を赤らめると、ミレンツェの隣に黙って座りました。
やがてミレンツェは今日あった出来事をゆっくりと話し始めました。

「おじさん、おばさん。実は今日ロージーに森の中でたった1つの大切な命を救って貰いました!
ろくにお礼の言葉も言わせてくれないままロージーは家に帰ってしまったので僕のお礼の気持ちを持って今日はいきなり参上しました」

「まぁ!ロージーがアナタを助けたですって!?そ、それっていったいどう言う事なの!?
お願いミレンツェさん!その事をもっと詳しく聞かせてちょうだい!!」

「本当だよー、ミレンツェ君!
このロージーがキミの命を救ったとはどう言う事かね!?この娘にそんな凄い事が出来るのかね!?」

「出来ますとも!!
実はそのぉ…、僕は今日森の中に画材道具を一式持って絵を描きに出かけて行ってたんです」

「ほぉーっ…、森の声に続く新作ですかな?」

「えぇ…。僕は子供の頃にあの森の美しさに魅せられてそれで森の絵を書き始めたんです。
何枚も何枚もあの森の絵ばかりを描いているとやがて、その絵を見ていた母が急に『ミレンツェっ!アナタって本当に凄いわ!きっと将来は立派な画家になってこの小さな村を有名にするわ!必ずそうなるわ!絶対なるに決まってるわ!』…と何度も々僕に言うようになったんです。
その母の言葉を聞いているうちに僕の方もだんだんとその気になって来まして…実はその頃の母の言葉がきっかけで、僕は画家を目指すようになって行ったんです。」

「まぁそうだったんですの!
確かにあの森は本当に美しくて素晴らしい所ですものねぇ。」

「あぁそうだな。確かにその通りだ。」

「ええ。だから僕はず〜っと前から沢山の森の絵を描き続けて来ました。
僕がもっと便利な街に出て行かない理由はこの小さな村の側にあの森があるせいなんです。
僕はまだまだあの森の全部を見ていないし描けてもいない。
もしかしたら僕は老人になってもこの森の全部を知る事も描き尽くす事も出来ないのかも知れません…。
生涯をかけてあの森を描いて行きたい!
そう思っていました」

「まぁ…素敵なお話ですわ。
それで…そのぉ…。ロージーがアナタの命を救ったってお話の方は…そのぉ…どうなりまして?」

「あっ、これはすいません!
僕は絵の事とあの森の事を話し出したらいつも止まらなくなってしまいまして!アハハハハ…。
と、とにかくそれでいつもはお昼前には森に入って絵を書き始めるんです。
あの森の景色を眺めながら取る昼食はまた格別ですから…。
でも今日はいつもより遅い時間に森に入りました。
自分の部屋で絵を描く為に必要な作業をしていましたところ、2階の窓から森の方の空がいい色をしてるのが見えたんです。
それで少し慌てぎみに森の中に入って行って僕はもう夢中で絵を描いていました。
そこにです!いきなり大きなクマが現れたんです!
僕はあまりに絵を描く事に没頭していたもんだから近くにクマが来ていた事に全く気付かなかったんです。
それでもう慌ててしまって絵筆を投げ捨てて思わず悲鳴を挙げたんですよ!」

「まぁ怖い!あの森にクマが出るって噂は本当だったんだわ!」

「そ、それでキミはいったいどうしたのかね!?」

「はい!もうどうしていいのか分からなくなって頭がパニックになった時にふと思い出したんです!
そっ、そうだー!クマに遭遇したら死んだフリをしたらいいんじゃないかと。
それでそこにそのままバタッと倒れてクマを見るのが怖いから顔を隠して小さく体を丸めて石にでもなったつもりで振えていたらそこにたまたまローズさんが通り掛かってくれたんです!」

「ええっ!?ロージーがですか!?」

「そうなんですよ!それでロージーさんがうまくそのクマを追い払ってくれたんです。」

「クッ、クマを!?追い払った!?このロージーがですか!?」

「はいっ!それはもうとても勇敢に追い払って下さいました!」

「ま、まさかそんな……!?」

「本当ですよ!ほらっ、現に僕はこうして無傷でおじさんおばさんとお話してるじゃないですかぁ!」

両親は揃って大きな声を挙げてただ々驚きました!
我が娘が実はかなりの力持ちでクマをあまり怖いとは思っていない事ナド2人には全く想像もしていない様子でした。
それからもミレンツェは話を続けましたがどうやって助けたか、その方法を笑って話さないものですから2人には余計に不思議に思われるのでした。
本当は先にローズだけを呼び出すつもりでローズの自宅に足を運んだのですが、その前にハンターを引き連れて再び森に入ったりもしていたので、来るのがすっかり遅くなってしまったのでした。
ミレンツェの話では後から森に入った時自分の画材道具も絵も全部クマにぐちゃぐちゃにされて見るも無残な状態になっていたらしくて、それを見た瞬間、恐怖でまた身体が振えてしまいロージーがいなかったら今頃自分はどうなっていただろうと思うと感謝の気持ちがフツフツと湧いて来て、時計も見ずに戻ってすぐにここへとやって来てしまったのだそうでした。
そのお陰でローズ家の夕食時とぶつかってしまってローズの両親とも会って話す事になったミレンツェでしたがローズの作った料理を食べて「美味い!!」と絶賛してみたり父から勧められたワインをガブガブ飲んでみたりとかなり上機嫌で帰って行ってしまいました。
そして彼が帰る間際にローズは出入り口の所でミレンツェから素敵なプレゼントを貰ったのでした。
それはミレンツェが描いた数々の絵の中で本人1番のお気に入りのものでした。
森の中の草原に咲く花々が風に揺れる様子が目に浮かぶようなこの絵はローズの部屋に飾られ、この絵を見る度にローズはいつも心を幸せいっぱいに満たせたのでした。


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あきゅろす。
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