パワーストーン物語 B 幸い、そんな問題を起こしても首はなんとか切られずに済んだが、上司達の風当たりは相当冷たく、若い彼の心を苦しめはじめた。 社内のムードは悪くなり、彼も琴美と毎日いちゃついてる場合ではなくなっていた。 若くてまだ人生さえちゃんと定まらない彼は、一流大学を卒業してやっとの思いで今の会社に入ったのだ。 会社は彼に名誉挽回のチャンスをくれた。 だからひたすら頑張るしか彼には生き残れる道は遺されていないのだ!! 彼は今まで琴美に向いていた視線の向きを仕事へと変え、そのため琴美の幸せはどんどん少なくなり、今では薔薇の園も天使達もどこかに行ってしまった。 悲しかった。 前が幸せ過ぎたから、そこから転落してしまった苦しみは今までの沢山の失恋の比じゃなかった。 死にたかった。 薔薇色から灰色へと変わった毎日は辛過ぎて、未来への希望すら湧いてきやしない。 「私の幸せは全部終わったよ..」 気がつくと有紀にメールを送っていた。 有紀からの返事はなかった。 もしかしたら有紀も苦しい思いをしているのかもしれない..いや..それとも今が幸せ過ぎて連絡する暇がないのかも..かつての私のように...。 そして彼は、結局責任を感じて会社からいなくなってしまった。 短期間の燃え上がる恋だった。 琴美はまた彼がやって来る前までの毎日の中にいた。 死なずに逃げ出さず相変わらずここでパソコンの画面に目を配り、上司の顔色を伺っていた。 そしてようやく自分を取り戻そうと思いはじめた時にまた有紀がひょっこりと会社にやって来た。 二人は今度は少し静かなイタリアンのお店に入り、お互い黙ってランチのパスタをするする口に運ぶとやがて有紀が口火を切った。 「私、結局振られたんだ..例の年下の彼にね..」 「なんだぁ〜、有紀も振られちゃったんだ..私もね、みごとに振られました!事情が事情なだけにどうにもならなかったのよねぇ...こればっかしは..」 「琴美がへこんでると思って今日はいい物持って来てあげたわよ!」 「一体何をくれようと言うの?」 「これよ!」 そう言うと有紀はテーブルの上に小さく可愛いパステルカラーの箱を置いた。 [前へ][次へ] [戻る] |