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パワーストーン物語
E
尚美は心の中で彼に深く頭を下げてみたが、気持ちはおさまらなかった。
それからは尚美は大学内を隈なく探し回ったが、広い校内ではなかなか見付からなかった。
時は流れ、少しずつ秋の気配が漂い始めた頃になっても、尚美は本をくれた彼を見付けられなかった。
と、言うよりは服装が変われば、尚美にとって余程特徴のある顔やヘアースタイルでもない限り、まっ正面からじっくりと見でもしないと他の学生との区別もつかなかったのである。
眼鏡はかけていたが視力が落ちたのかだんだん見えにくくなっていた。
尚美は母にはとても言えないので、山梨のばあちゃんに眼鏡を買うお金をねだった。
「もう宝石はよかけん、眼鏡を買うお金、お母ちゃんにはないしょでこっちに送ってー!」可愛い孫の願いがすんなりと聞き入れられるのは尚美は分かっていた。
そして近所のショッピングセンターに眼鏡の料金をチェックしに行ったがどれも高そうだ。
ショーウィンドウをあれこれのぞいていると、中から背の高いバイトの青年らしき男が顔を出した。
「あっ!!」
「あれ?尚美ちゃんいらっしゃい!目ー、悪かったの?あれから何度も擦れ違ったりすぐ近くで講義受けてたりしたけどぜんぜん気付いてなかったんで、てっきり俺を変態男と思っているんだと正直がっかりしたぜ。視線があったと思ったのに無視されたのは目が悪いせいだったんだな!あー、よかった!」
「ゴメンナサイ...私、最近、また視力が落ちたのか黒板の字も見え難くて、山梨のばあちゃんに頼んで眼鏡代を貰うつもりだったの...お兄さんの事はお礼を言うつもりでずっと探してたのにこの目じゃ見付けられなくて...」
「ほんと!?じゃあ、俺、尚美ちゃんに嫌われてなかったの?」
「親切にあんな高価な本をぽんとくれた人を嫌ったりはしないから..」
「やったー!じゃあこの近くの商店街でお茶でもしない?俺、もうすぐ休憩時間だし、眼鏡でもじっくり見ててくれたらじきに店長が戻ってくるし!」
「うん!」
それからしばらくして店長が戻って来たので二人は喫茶店に入り共に同じケーキセットを注文した。
わざわざ合わせた訳ではなく本当に偶然同じ物を注文していた。



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あきゅろす。
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