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パワーストーン物語
A
尚美は今更ながら後悔していた。
やがて本は最後の一冊となった。
しっかりビニールコーティングされ、中味が見えなくなっている本が憎らしい気がして発作的にあのビニールを剥がしてしまいたくなった。
もう限界だ...
そう思い、最後の一冊ををレジに置き「私、これ買うからちょっと待ってて!今奥からお金持って来ます」
そう言って財布を取りに行って戻って来るととんでもない事になっていた。
お客の男がレジ係の男の子と喧嘩になりかけているではないか!!
「なんでこの本を売ってくれないんだ!?俺はこの本がどうしてもほしくてあちこち探し回ってやっと見付けたんだ!ここに置いてあるだろう?」
「これはうちの従業員の娘が買う為に置いてあったものなんです...」
「客より従業員を大事にするのかこの店は!!?」
「お客様...申し訳ありませんでした...どうぞこちらをお買い求め下さい...」
尚美は堪らず二人の間に割って入った。
「尚美ちゃん、いいの?」
「勿論!お客様が優先です!」
バイト仲間の武君が必死に本を守ってくれたが尚美はお陰で本を買って今月の生活が苦しくならずに済んだのだとかえってあきらめがついた。
最後の一冊を買った男はばつが悪そうにちらりと尚美を見たが、やはり他のお客同様少し小走りで帰っていった。
それから一週間後、尚美は店の隅っこでちらかった本の整理をしていると後ろから男が声をかけてきた。
「尚美さん...」
聞き覚えのない声に振り返り顔を見てもその男が誰だか分からなかった。
田舎から出て来てボーイフレンドもいない尚美の名前をこの人はなぜ知っているのだろう...。
すると男は尚美に大きな袋を差し出した。
なんだろうと開けてみればあの日買えなかった「ファイナルクエスト」の攻略本が入っているではないか!!?
「お客様!攻略本の返品はこまります!!」
思わず厳しい口調で言ってしまったがそうではなかった。
「キミがこれを買う予定だったのに俺が横取りしたみたいでずっと気分が悪かったんだ。もうゲームはとことん遊び尽くしたし、この本は使わないからキミにあげてしまおうと思って持って来たんだぜ!」


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