APH/novel Z 「イギリス…!」 誰が動くよりも早く、真っ先にフランスがイギリスの頭を自分の膝に乗せて、その力ない手をぎゅっと握りしめる。 …イギリスの腹は、見るに堪えなかった。 「イギリス…!」 「…フランス…無事…だよな……?みんなも…。」 「無事だよ!!超元気だよ!だからお前も…」 す、とイギリスのどこか白い首がおとなしくゆっくりと左右に揺れた。 その否定がどういう意味か。その場にいた全員は解っていた。 「…傷がな、…深いんだ…。それに…たとえ傷が、大丈夫でも、…俺は足手まといにしか…ならない。」 「な……足手まといって……!何いってるんですかイギリスさ」 「もう見えねぇんだよ」 日本の言葉を遮って、イギリスがぴしゃりと断言した。…日本は、既にぐしゃぐしゃに泣いていた。 「…薄らとも見えねぇ…フランスも、皆の顔も……はは、…泣いてる顔、からかうつもりだったのに…」 皮肉を浴びせながらも、イギリスの声が震えていた。声が高く、言葉にしにくいようにしていた。 日本とアメリカは咽び泣き。イタリアは目を見開かせ。プロイセンとドイツは俯き……。 ……フランスはただ、イギリスを見つめることしか出来なかった。 (……嘘だ。……嘘だろ……?……ここでイギリスが死んじまうなんて……嘘だ……。) 脱力感にもよく似たその感覚に襲われたフランスは涙すら流すことさえままならなかった。 …衝撃が多き過ぎる余り、受け取れなかった。 「……日本、…アメリカ……泣くな……」 「…っ…はい…!」 「解ったよ……解ったから……!!」 ぐずぐずの顔で、二人は必死に受け答えする。 「ドイツ……プロイ、センも……皆を…護って、くれ……。…イタ…リア…お前は…日本…頼む……」 「………ああ。」 「……当然だっつの…俺様が、…護れねぇわけねぇだろ……!」 「…大丈夫…大丈夫だよ……大丈夫だよイギリス…そんな…そんなこと…!」 最後の方は、三人だって泣いていたかもしれない。 「……フランス。」 「―――っ。」 焦点の定まる事のない、それでも美しいエメラルドの瞳が、必死に自分の目に合わせようとするのさえ見ていられなかった。 そのままイギリスの手のひらが俺の髪の毛まで延びて。 愛おしそうにそれを撫でて、撫でて。 かなり弱い力でそれを自分の顔まで近付けようとするから、イギリスの顔のすぐそばまで寄って。 「耳元」 小さくそう答えられたから、イギリスをゆっくり抱き起こして、抱き締めて。イギリスの口もとが自分の耳に近いようにして。 直後。 「―――愛してる。」 その単語が耳から脳に染み渡って、やっと全身に回った瞬間だった。 イギリスが、まるで、…電池を失った玩具みたいに、ネジが解けた人形みたいに、かくんと…力を失ったのは。 「あ……。……嘘だろ……イギ…リス……お前、嘘だよな…?っはは、冗談だろ……なぁ……なぁ…!!!」 フランスの言葉は、もう、彼に入ることは…無かった。 [*前へ][次へ#] |