APH/novel X 「…よ……かなる……賜り……の………!!」 駄目だ。足りない。 禁断系の魔術は呪文がやたらと長い。二秒のうちではフランスが死ぬ確率をほんの少しだけ下げること位しか叶わなかった。 (時間が…足りない!!) すぐに動き出した怪物を睨みながらそう悲痛なる思いを胸のうちで叫ぶ。 止まれ。止まってくれ。そう思うのにそれは敵わず化け物はすぐに動き出す。それも、あんなにもぼろぼろのフランスの方に。 (見て、られねぇ……!ああ、もう……!!) 動けない筈の足で。 体を芋虫みたいに引き摺って。 なりふり構わず、フランスを踏み潰そうとした怪物の前足の前に咄嗟に踊り出た。 ミシリ、と何かが軋む音が聞こえた直後。 踏まれたのは腹部だ。 腹が潰れるような激痛と強烈な吐き気に意識すら壊されそうになる! 「っ…ぐぼ…っ!?っが、ぁ、あぁあ!!」 「イギリス!イギリスッ!!やめろ…やめろよ!離せッ!!」 フランスが必死にレイピアで化け物の腕を突き刺したり斬ろうと試みる。 しかし、運悪く化け物はイギリスから始末することを決めたらしい。ミシミシとイギリスの腹部をゆっくりと踏みつける力を強めていく。 「っぐ、ぁ…はぁ…っ…!!!…ぅ、ぁ、は…遥かなる…時空よ……!!」 イギリスはそれでも魔法の呪文を止めはしなかった。元より代償の高い魔法だ。もうどうなっても構いはしなかった。 しなかったけれど。 (フランスが生きていなくちゃ…!ダメだ…!) その言葉を口に出すことは敵わなかったが、ちらりと自分を助けようと必死になっているフランスの目を見つめながらそう思う。 だが、それに反してフランスは化け物への罵声と攻撃を止めない。 本来ならばイギリスはここで自分を置いて逃げてほしかったぐらいだった。 ミシ。 また少しずつ潰そうとする力が強くなる。 イギリスは既に虫の息だったけれど、決して呪文は止まることは無かった。 …口が切れたわけではない。間違いなく腹からだ。 沸き上がってきた血液が一筋、口から漏れた。 それを目にしたフランスは恐ろしいものでも見たかのように目を見開かせて、今にも泣きそうな顔で化け物の腕に攻撃を重ねた。 「やめろ…っ!頼むから…!頼むからやめろよぉおおッッ!!!」 イギリスは、フランスの声を聞きながらただただ彼を守る唯一の手段を続けていた。 「イギリスさん!!フランスさんっ!!」 「二人とも!!……ああっ!!」 「イギリスが…!!」 後方から届いてきた声にはっとなって、イギリスは目だけであったが振り替える。 そこには枢軸3人と、プロイセンとアメリカの姿があった。 [*前へ][次へ#] |