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APH/novel
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「…きくと、せんせぇは、おともだち?」
「え?」



挨拶を交わした直後。アーサーの口からおずおずと言葉が投げ掛けられた。
こんな事を何度も尋ねるなんて、相当菊ちゃんの事を信頼しているんだろう。俺個人として凄く頷ける。


「そうだよ、お兄さんは菊ちゃんのお友達なの。」


ので、作った笑みじゃなく俺本人の笑顔がついつい溢れてしまうのも無理はなかった。なかったんだから菊ちゃん部屋に入りながら横でさりげなーくくすくす笑うのやめて欲しいです。お兄さん今、めっちゃめちゃ恥ずかしい。


「とてもお優しい方ですよ。子供たちからも人気があって、皆ボヌフォワ先生のことが大好きなんです」


…菊ちゃん今やめてあんな話した後なのも手伝ってお兄さん素で泣きそう。


「…やさしい…?」
「ええ、とても。」


菊ちゃんの暖かい微笑みからまたちらちらと俺に視線を移す彼。なんだかその動きが小動物…強いて言えば伸びた髪が兎みたいで可愛らしい。


「…フランシス、せんせぇ。」
「はぁい?」


そのままアーサーは俺の名前を呼んだ後にわたわたと視線を泳がせて何か言いたげに俺を見ては反らす、を何度も何度も繰り返す。
そして彼は近くによるように小さく手を動かしてはベッドの上から体を動かしてみせたりした。
かなり興味は示してくれているみたいだけどまだ緊張が解けないのかもしれない。



なんて、思ってた。



「…きれい。」


くしゃり。


いやくしゃり。と言うよりもぐしゃりだ。いやどっちかって言うとがしっ、だろうか。本当にそれこそ子供がするような触り方で、ベッドの側まで来た俺の髪の毛をわしづかんでじっと眺め始めたのだ。


「ちょ…!あ、アーサー何やってるんだい早く離して」
「いや、いいんだよ。」


慌てて止めさせようとする青年に微笑みかけながら制す。興味を持つと言う事は何事にも大切なきっかけになれる。
アーサーはまだ無言のまま俺の髪の毛をじっと見つめ続けているらしい。横目で菊ちゃんの方を見ると至極楽しそうに微笑んでいる。

…いいんだけど案外予想してたよりもこの子の腕力が強くて顔をあげられなくてお兄さんアーサーの顔が見えないから少し不安なんだけど…。…いやまあいいか。


「俺のと、ちがう……」
「きれい?」
「わっ、あ、ご、ごめんなさ…っ」


アーサーの手からこぼれ落ちたであろう髪束が顔や額の上にぱらぱらと落ちる。同時に俺の頭全体を捕らえていた力が弱くなった。


「平気だよ。寧ろ褒めてくれてお兄さんすっごく嬉しいな。…ありがとう、アーサー。」
「わ、あ、う、……う。」

笑み掛けてみると白い頬が一気に真っ赤に染め上がりすぐに俯いては小さく頷く。
本当に小さな子供のやるような仕草だ。


「…おれ、は、……ぼさぼさだから」
「そうかなー?色は綺麗だしちゃんとケアしたらきっときれいになると思うよ?」
「…自分じゃ、…できな、…し。」


わたわたと恥ずかしそうに兎のような髪の毛を触るアーサーに菊もゆっくりと近付いてくる。


「ならフランシス先生に髪を切って頂いては如何でしょうか?」
「え、ちょ、菊ちゃんそれだ」
「いいの!?」


大丈夫なの。


その言葉が出る前にアーサーが嬉しそうなはにかみを見せてベッドの上でがばりと体を動かす。


驚いた。
あんなにもナイーブで、人慣れしないと思っていたもんだから。ましてやここまで髪の毛を伸ばしっ放しにするって事は刃物が駄目なんじゃないかと思っていたもんだから。

そして、この子こんな風に笑えるんだと思ったら唖然としたまま俺は彼の笑顔をただただ見つめるばかりだった。


菊はしめた、とばかりに笑っているし。
……いやでもなんか一瞬にやんとした黒い笑い方が含まれていたような気がするのはきっとお兄さんの見間違いだと信じたい。


「ほら、フランシスさん。」
「え、あ、ああ……か、構わないよ。構わないけれど、い、いいの?」

「うん!」


明るい笑みを浮かべたまま元気よくうなずく彼。



「せんせぇみたいにして。」





俺は急遽、翌日の手荷物に鋤き鋏とブラシその他ヘアケアグッズ諸々が加わることとなった。




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あきゅろす。
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