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APH/novel
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「本当、フランシスさんは子供たちに大人気ですね。」


どこもかしこも真っ白な廊下を菊ちゃんとふたり並んで歩く。そろそろお昼の休憩時間もすれすれだし次の仕事場に行かなくちゃ行けない。さっきの子達ともまたあとでねって笑ってバイバイした。
五分前行動なんだって。ここに来て初めて知った言葉だった。以前の俺なら定められた休憩時間きっかり休んでから戻ってきてたに違いない。

俺、菊ちゃんいなくても向こうの病院でちゃんとやっていけるかなぁ。


お昼休みのおわり。そんな小さな事さえ別れが目前だからだろうか、感傷的な気持ちになってしまう。なんとか場を誤魔化そうと、確かに作り笑いには違いないだろうけど慌てて自分もにっこりと笑った。


「俺が来た時、人見知りせず優しくしてくれたから、俺もめいいっぱいお礼してあげただけだよ」
「ふふ……謙遜なさらずとも構いませんのに。みんな、フランシスさんが行ってしまわれるのを寂しがっていました。」
「…菊ちゃん。」


やめてよ菊ちゃん、せっかく明るい気持ちを盛り上げようと作り笑いかましたとこなのに、そんな風に言われたらまるで実は寂しいのが見透かされてるみたいでちょっと虚勢がぐらついちゃうじゃない。


「たまにはまた遊びに来てくださいね。楽しみに、お待ちしていますから…。」


けど、そのあとに続いた彼の優しげな表情に寂しい気持ちとここに留まっていたいという気持ちが「旅立ち」に少しだけ、背中を押してくれた気がした。




「……優しいよね、本田せんせぇは。」
「貴方こそ」



二人で病室の前で小さく笑う様は、上司と部下の色は抜けていなかったけど確かに友達同士のそれだった。


暫く笑いあってから、菊が控え目に「では…」と呟いて、しなやかな手が病室のドアの手すりに掛けたのを引き金に俺も表情を変える。


あと日本に居るのもあと3日で、ここで仕事をするのも残り二日しかないのだが、これから会う患者さんは初めて顔を合わせる相手なのだ。


それも俺がこの国に来た3ヶ月前よりも前にこの病院に入院していた人。菊ちゃんからの話では重症な上に極珍しいパターンの患者さんだと言う。重症の場合人見知りが激しい方もいるから医師もそれに会わせて極力人に会わせないこともあるのだ。そして、その患者さんは俺と同じく欧州から海を渡ってきた青年で、しかもそろそろそちらに帰ると言う共通点。


驚くべくなのはそこだけじゃなくて、なんと俺が次に働くフランスの病院に通うことになるらしいのだ。菊ちゃんもそれを聞いて少しでも話しやすい先生が居れば患者さんも安心だろうと俺に会わせる事にしたらしい。

担当医というものは曜日等での交代はあるだろうがそう頻繁に変わるものじゃない。新しく来た医者には新しい患者さんが付けられる可能性はそりゃあるだろう。…つまり、俺にとって(立派な医師として)始めての担当する患者さんがその彼になるかもしれない訳だ。


菊は少し扉の外で待っているようにと手のひらで俺に示して見せた。俺がそれに頷くとノックをしてから扉をゆっくりと開けて、病室の中に体を乗り出して微笑む。



「アーサーさん、体調の程はいかがですか?先日お話させて頂いたフランスでもお会いするお医者さんを連れてきましたよ。」



前々から菊の話に出ていたアーサーという青年。


俺はこのときはじめて彼に出会った。






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