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APH/novel
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「……はっ、」



もやもやとした気持ちの最中、部屋に響き渡るアラームの音で目を冷ました。


(…そうだ、昨日。)


すっかり寝癖でぐしゃぐしゃになっている髪の毛をわしゃわしゃとかきむしりながらベッドからアンニュイに起き上がる。

気分とは全くもって対照的な朝の光が恨めしい位に綺麗で、朝日には何の罪もなかったが舌打ちをした。



(……あんな夢みるなんて……。)



相当いかれてる。


こんな夢を見たのも絶対に、昨日フランシスと思いっきり喧嘩をしたせいだ。


最初の始まりこそなんだったかなんて覚えてない。ただ俺が想いとは真逆にぐさりとくる一言をつい放ってしまって、あいつがそれをたしなめたのが始まりだったことは確かだ。


(…それならすぐ謝れば良かったのに。)


別にたしなめられたことに腹が立った訳じゃない。素直に謝るとか、素直に認めるとか、そういう行動が取れなくてついかっとなって文句を返してしまっただけで。

ただそんなことだとしても、それはどんなにあいつを傷付ける行為だったかなんてすぐ解るのに。



(……俺の、ばか…。)



頭の中でこんなふうに考えていたって、あいつには絶対に伝わりなんかしない。

追い討ちをかけるかのようにいつもなら常に煩く鳴っているはずの携帯は沈黙を極め込んでいた。


(………だめだ、)



耐えられない。ふとそう思った。


当然、アーサーがこの沈黙と孤独感にどうしても耐えられなくなるのも目が覚めたばかりだとしても無理はなかった。


(…妖精さんたち、どこに居るんだろう。)


寂しいなら寂しいでフランシスに謝ればいいのに、寂しさを埋めるためにわざわざ近くにいる誰かに頼る自分が情けなくて少しだけ悲しくなってくる。

いつもならその辺りで遊んでいるはずの妖精さんたちが見当たらない。

きょろきょろと周りを見渡しながら探ってみるが見つからないのだ。


「…?ブラウニー?ピクシー?…ユニコーンー?いないのかー?」



一通りリビングからキッチン、バスルームにまで足を伸ばして皆を探してみる。……のだが見当たらない。

いつもだったら勝手に家から出ていくようなことあいつらは絶対にしないし、聴力のいいあいつらなら俺の声なんて………。


そこで思考が途切れた。



「あ……あれ………?」



そうだよな。あいつらは絶対に俺から離れてなんかいくはずないもんな。
じゃあ、何でだ?


…あいつらがいなくなったんじゃない、あいつらがどっかにいったんじゃなくて、もしかしたら……?



「っ……!」


その仮定にたどり着いた瞬間、思わずテーブルに置いてあった星形のステッキを乱暴に手に取った。
魔法は感情に左右されるものだから、こんな焦ってる中で魔法なんてやっても失敗するなんてのは解っていた。
解っていたけど、失敗して爆発するでもいいから証明したかった。


「ほぁた!!」


ステッキを振りかざしながら声をあらげる。



だが…周りにはなにかが起きたような変化は何もなく、俺の声がただ部屋に木霊しただけだった。


(嘘だろ…そんな、なんで急に!?)


嘘だと言ってほしくて、こわくて、無我夢中でステッキをぶんぶん振り回す。



「ほぁた…っ!…ほぁた!ほぁた!!」



何をしても、いくら集中しても、どんなに振りかざしても。



「……魔法が、…使えなく…なった……?」



英国人ならみんながみんな魔法が使えるとか、他の国籍の人は使えないとかそういうルールは無い。
生まれつき魔力が高かったり、強い純粋さだったり、感情の状態だったりが精密に交差して魔法が使えるようになるのだ。

でも、俺は人じゃない。


人じゃなくて国だから、生まれつき魔法なんて使えてたし妖精さんも見えた。

そりゃ周りの奴等から魔法が廃れ出した時は調子も狂った事もちらほらあったけど、…まったくのゼロになったことなんてはじめてだ。

…いったいどうして。


ひとりっきりで、それも理由が解らない上に治るかどうかも解らない状況。
きっと俺の周りには妖精さん達が居る。くるくると飛び回りながら心配してくれているはずだ。

でも、見えない。



(そんな…………)



もう、もし治らなければ。
……治らなければ、ずっとあいつらにも会えない……?


そんな絶望を胸に満たした直後、ポツポツと雨粒が落ちる音が窓の外から聞こえてきやがった。





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