記憶の欠片 迎 人 数ヵ月後。 江戸に爆弾が仕掛けられたとの噂があった。 事前に食い止められたらしいが。 仕掛けたのは、たぶん高杉だ。 記憶がない間の記憶は、記憶が戻ると忘れるというけど、私は全く忘れていなかった。 「怖い思いをさせた」 と土方さんに言われていたが、高杉は私に優しかった。 高杉だけじゃなく、また子さんも皆。 空を見上げると、宇宙船が飛んでいる。 あの中に高杉はいるのだろうか? 負い目を感じた私は土方さんと別れた。 別れたというか、距離を置いたというか… 実質、恋人ではなくなった。 土方さんは、待ってくれると言っているけど。 その優しさが、私を追い詰める。 「助けて。晋助」 手を空に掲げて呟いてみた。 「そんなんじゃ助けにこねーぞ」 聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、高杉が煙管を銜えて煙を吹かしていた。 「晋助…?」 「迎えに来てやったぜ」 目の前に居ることが信じられず、迷いながら近づくと、高杉が腕を引き抱き締めてくれた。 「…用なしじゃ、なかったの?」 「勘違いしてんじゃねェ」 高杉を見上げた私の耳元で囁く。 「……愛してるって言ったじゃねェか」 高杉に連れられて船に乗ると皆が出迎えてくれた。 皆と話した後、甲板に1人で佇んでいる高杉の傍に寄る。 「晋助」 やっぱり返事はせずに、視線だけをこちらに向けた。 「私も愛してるよ」 あ。 高杉もそんな顔するんだ。 一瞬だけ、驚いた顔をしたのだ。 くすくす笑う私を見て、舌打ちをした高杉が私の腕を引っ張る。 「…おめー、今日は寝かせねェからな」 かぁと音が出そうな位、頬を赤くした私に、高杉は口の端をあげて笑った。 end. [*前へ][次へ#] [戻る] |