記憶の欠片 喪 失 私を抱えているのは隻眼の男。 「…誰?」 掠れた声で言った私に、男は何も言わない。 揺れている心地よさに、また私は目を閉じた。 どのくらい眠っていたのだろう? ゆっくりと目を開けた私は、知らない風景に瞬きをする。 何処? 起き上がろうとしても、全身がうまく起き上がれず。 頭が割れるように痛い。 何故こんなに頭が痛いのだろう? 記憶どころか、自分の名前すら、覚えていないことに気付く。 「や…キャーーーー!!!」 割れそうになる頭を抱えた私は、零れ落ちる涙も拭えずに、ただ震えていた。 「大丈夫ッスよ」 女性の声に顔をあげる。 ド派手な女性… 警戒する私… 「…傷つくッス。怯えないで欲しいッス」 苦笑いをした女性は、来島また子と名乗った。 「晋助様があんたを助けたッス」 「晋助様?」 また子さんの視線の先には隻眼の男。 何時からそこに居たのだろう? 窓辺に座り煙管を燻らせている。 また子さんが部屋を出ると、その男が私に近づいてきた。 「千咲」 「え?」 「おめーの名は、千咲だ」 「貴方、は?」 なんで私の名前を知っているの? なんで、私を助けたの? 聞きたいことがたくさんあるのに、声が出ない。 「安心しろ。殺しはしめェ」 くくっと笑うその男に、私は身震いがした。 会ったことがある。 記憶をなくす前は、この男を知っている。 そんな気がした。 [次へ#] [戻る] |