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ヒトリ季節企画
坂田銀時
3月14日。ホワイトデー。

去年のお返しは手作りクッキーに暖かそうなファーマフラー。

今年も一緒に過ごせるだろうか。






"愛してる"と告げてからの銀さんが上機嫌で少し面倒臭い。

「え?美砂今日飲み会?浮気かコノヤロー」

仕事が終わって気付いた携帯電話の着信の点滅に。

かけ直して伝えるとこう言われた。

「違うし。会社の打ち上げだし」

「へェ。門限10時な」

「は?門限って何?なんで?」

「なんでって聞く?意味わかんねーなおい」

意味わからないのはこっちだし!

同僚が腕時計を指差して待ってるんだけど。

「ごめん銀さん、また掛け直す」

「10時に迎え行っからな」

「え、いや10時って意味分からないって、」

「行くからな」

強引な口調の銀さんに苛ついた。

「……何よ一体」

「あ?」

「ただの彼氏にそこまでされる覚えないからっ」

…切ってやった。

ついでに電源も。



苛ついたまま一次会も終わり、同僚達と二次会へ向かう。

チラと腕時計を見ると22時を回ったところで。

迎え来るって言ってたけど、何処で呑んでるか知らないし、ね。

放っておこう、と同僚達が向かうバーへ向かっている道中。

原付に乗った銀髪が居た。


「門限過ぎてっぞ」


不覚にもドキリとしてしまった私は咄嗟に目を逸らしてしまう。

「美砂?先行っとくよ?」

同僚が耳打ちして先を歩いて行った。

「美砂ちゃーん、おーい」

目を逸らしたまま、私は呟く。

「……門限ないもん」

「ありますーさっき銀さんが決めました」

歩き始めた私についてくる銀さん。

「なんでついてくんの、」

「心配だから」

「会社の打ち上げだよ?銀さんだっていつも呑みに行くじゃない」

そうだけどさぁ、と銀さんの手が私の手を掴んだ。

「え、なに?」

私の手の中にはリボンのついた小さな箱。


「いやなんかさ、買っちまったら早くおまえに会いたくなってよ」


ポリポリと頭を掻きながら言う銀さんの声が少し上擦っている。

この大きさは…

もしかして……

ドキドキする気持ちが抑えきれず、銀さんに抱きついた。

「ちょっ、美砂ちゃん!?ここ外なんだ、けど」

「いいの!嬉しいよ銀さん…」

ありがとう、と銀さんの背中に手を回してしがみ付く。

「開けてみねーの?」

「あ」

開けてみる、と銀さんから離れてリボンを解いた。

箱を開けるとまた箱が。

パカッという音と共に私の目に入ってきたのは、思った以上に光り輝いている指輪で。

「え、ちょっ、銀さん!?」

お金ないってあんなに言ってたのに、こんな豪華な指輪……

「ほらホワイトデーは3倍返しなんだろ?貸してみ」

左手をとられて迷うことなく薬指にするりと入っていく指輪に自然と頬が綻ぶ。

あれ?左手?

「ピッタリ」

嬉しそうに笑う銀さんにこっちも嬉しくて。

「どう?」

手の甲を見せると、銀さんが指輪を嵌めている方の手を握った。

「銀さん?」

指輪を愛おしそうに撫でる指が擽ったい。


「俺の、嫁さんになってください」


そんな煌めいた目で見られると私の心臓は早鐘のように鳴り響いてしまって。

「…はい。お願いします」

零れ落ちそうになった涙が銀さんの着流しに吸い込まれていった。



同僚に電話をして先に帰ることを伝える。

原付の後ろにしがみついた私は、月の光に輝く指輪に顔がにやけてしょうがない。

「銀さんー」

「あー?」

運転中にも関わらず少し後ろを向いた銀さん。

「婚約って、なんか恥ずかしいー」

「あーそうだなー」

「でも」

ぎゅっと腰に回した手に力を入れて、頬を銀さんの背中に預けた。

「幸せだよ」

町の喧騒に掻き消された私の言葉。


「…俺も」


信号待ちで、囁かれた言葉と共に、口付けが降って来た。





貴方の腕の中はやっぱり甘過ぎて。

とっくの昔に私は貴方に溶けてしまっているようだ。



20100309

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あきゅろす。
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