ﾋﾄﾘ季節企画
高杉晋助
何党なのか全くわからない彼にはチョコレート…
でいいのか？
2月14日なんか関係なさそうだな。
そもそもイベントとか全く興味ないよね。
甘い物を食べたのを見たこともないし。
クリスマスもお正月も会ってないんだから、バレンタインデーなんかどうでもいいに決まってる。
といいつつも、一応、手作りチョコレートは作ってみた。
いつ来るかわからない晋助の為に。
多目に作ったから義理チョコでも配りに行こうっと。
吉原方面に歩いていると、ちょうど銀髪の男と目が合った。
「美砂ちゃんじゃない。何してんの？」
ヘラヘラ笑う手ぶらの銀時が哀れで紙袋の中から義理チョコを1つ取り出した。
「はい。義理チョコ」
「ちょっ、わざわざ義理って言わなくても、」
「お返しは3倍ね」
楽しみにしてるよ、と笑う私に銀時が嘆息して続ける。
「これ手作りだろ？あいつ甘いモン食わねェだろ」
「たぶんね。会えるかもわかんない」
「そろそろ見切りつけて銀さんと付き合う、」
「ありえないね。銀時と付き合う位だったら一生彼氏なんかいらないよ」
「ひどい…」
そんなことを言っても冗談で済む相手だから、こうしてずっと友達でいれる。
「あ。そうだ。ヅラに会うことある？」
「さァ？」
ゴソゴソとヅラと新八くんのチョコを取り出して銀時に渡した。
「2人に渡しといて」
「はいはい」
銀時と別れて月詠に会いに吉原の方角へ向かう。
夕刻になるにつれて、吉原の灯りが派手なものに変わっていく。
月詠にもチョコを渡し、すっかり日も暮れてしまった。
あれ？あの着物は…
指名手配犯なのに派手な着物は目立ってしょうがない。
久しぶりに見ただけで嬉しくなって頬が緩む。
小走りで近寄ろうとした私の前に現れた1人の女の子が、晋助の前で立ち止まった。
え？
「これ受け取ってください!!」
遊女なのかよくわからないが、可愛らしい紙袋を手渡している。
「あ？」
「バレンタインデーなんで、チョコと思ったんですけど干菓子です」
「あァ」
受け取った…あの晋助が受け取ったよ!!
凄くショックで動けない。
女の子が去って行った後、隻眼が私を捉えて近付いてきた。
「よォ。美砂」
手に持っている紙袋が不釣合いだ。
上機嫌に見えるのは遊郭帰りだからでしょ？
何なの一体。
「彼女放っといて遊郭ですか。いいご身分ですね」
「あ？彼女？居たっけなァ」
酷い。
「…もういい。もう二度と会わない」
「冗談だ馬鹿」
抗う私を難なく引き寄せて頬を撫でる。
冷たいんだよ、晋助の手は。
「…おまえに泣かれんのは、」
「泣いてないから」
「あ？」
ごしごしと目尻にたまった涙を拭い、晋助を見上げた。
不釣合いの紙袋を私に渡すと先を歩く。
「なんで私に渡すのよ…」
「あ」
くるりと振り向いた晋助が口端をあげた。
「それ俺のか？」
私がずっと持っている紙袋を見てにやにやしている。
いやこれは義理チョコ配った後で何も入ってないんですけど。
舌打ちをした晋助がまた前を歩いた。
玄関を開けた途端、晋助に抱きすくめられる。
「やめなさいって、」
「あん？何もしねーよ」
嫌がる私の首筋に唇を押し付けて何が何もしない、よ……
「後でね」
晋助を押し退けてそそくさと部屋に入り、晋助用にと作った箱を渡す。
「作ったのか？へェ」
リボンを解き、中を見た晋助の口角があがったのを確認してから、台所に行く。
「晋助甘いのダメでしょ？甘さ控えめにしました」
緑茶の入った湯呑を渡しに行くと、チョコを食べている晋助に少し驚いた。
「なんだ？」
「いや晋助がチョコ食べてるの初めて見たから」
「特別だ」
「特別？」
「美砂んだけは、特別に食ってやる」
特別とか言ったら私が喜ぶと思って……
「晋助」
緑茶を飲みながら私を見遣った晋助に。
「好きだよ」
こんな機会がないと言えないから。
「なんてね」
くすくすと笑った私はやっぱり恥ずかしくなって目を逸らした。
「美砂」
手を伸ばした晋助に腕を取られて晋助の胡坐の上に倒れこみそうになる。
「ちょっ！急に引っ張らないでよ」
倒れこまずに床に手をついた私を抱き留め、そのまま組み伏せられると、私の視界には晋助越しの天井が入ってきた。
「…来月には迎え来っから」
用意しとけ、と唇が重ねられる。
「え、え？」
何かものすごく重要なことを言われたような気がして起き上がろうとしたけど、私の両手を頭上で括りつけられ、始まった深い接吻に抗えず。
身体は晋助を求めてしまって。
何度も肌を重ね合った。
まだ耳に残る晋助の言葉。
貴方はチョコより甘くて少し苦くて。
目が覚めた時に居てくれなくても平気な気がした。
20100211
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