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リク&HIT御礼企画
再出発<須堂まもり様 14000キリリク>【土方】
執着するものなんて何もない。
これ以上何も望んではいけない。
失うくらいなら、最初から望まない。



【再出発】



医師不足だといつか読んだ新聞に書いてあったが、此処も例に漏れず。
36時間勤務は日常茶飯事。
化粧も剥げ落ち、引っ詰めた髪からは後れ毛が流れ落ち、患者も気の毒そうな表情で私を見ている。

あぁ、早くお風呂に入りたい…

交替の医師が来るまで後2時間。

自販機でコーヒーを買い、部屋に戻る途中に携帯が鳴った。

「はい」
「緊急オペをお願いします!」

やれやれ。
買ったコーヒーに口をつける間もなく、私は急いでオペ室へ向かった。


運ばれてきた人を見て愕然とする

数ヶ月前に一方的に別れを告げ、承諾してくれた相手…

「土方さん…」

真選組の制服が真っ赤に染まり、意識もない状態。

どうしてこんな……

「先生!指示を!!」

動揺している場合じゃない。
私は深呼吸をしてオペを始めた。




出逢ったのは1年ほど前。
真選組の面々がこの病院に来ることが多い中、銜え煙草で堂々と病院に来た男がいた。
それが副長の土方十四郎だった。

腕から血を流しながら来た副長は私を見るなり訝しげな顔をする。

「担当医が女とはね」

「女相手じゃ脱げませんか?」

舌打ちをした副長が制服を脱ぎ、流血部分を診察する。

「深い傷ではありませんが縫合しておきましょう」

局部麻酔をしている間、煙草を取り出そうとした副長に溜め息を吐いた。

「土方さん、病院は禁煙ですよ。それに麻酔も効きにくくなるし」

銜えていた煙草を元に戻し、土方さんは私に視線を移す。

「手っ取り早くやってくれ」

「あ、はい。分かりました」

この日を境にお互いの気持ちも自ずと近付き、恋人という関係になるのも早く。


でもそんな関係も長くは続かず、片や真選組副長、片や総合病院の医師…

お互い不規則な仕事の上、待ち合わせを決めてもドタキャンもしばしば。

そういう関係に疲れてしまったのだろう。

私が別れを告げた時、簡単に承諾してくれた。

あっけなかった。

好きって感情だけじゃ、どうにもならないんだと知った……




回診の時間。

数ヶ月ぶりに逢った貴方はやっぱりかっこよくて。

「土方さんどうですか?」

医師と患者。
それだけの関係。

「お名前は?」

心臓が高鳴る。
一瞬で思い出してしまった。

「い、痛みはありませんか?」

「あァ。退院はいつできる?」

「2週間ほどで退院はできますが、」

「2週間か。
……おまえ痩せたか?」

腕を掴まれる。

ぬくもりが、また思い出させる。

振り払うこともできず、固まった私に土方さんが苦笑した。

「そんな顔すんな。やりづれェ」

「すみません…」

傷跡を見るために寝間着をはだかせ、聴診器をあてる。

ガーゼで覆われた傷を見ると出血は収まり、ほっとした。

「順調ですね」

はだけた寝間着を直し、私は一礼をして次の患者の診察を始める。






土方さんが入院してから10日経った頃。

仕事終わりに帰ろうとしたら、ロビーの外に銜え煙草の土方さんが居た。

「入院中は禁煙ですよ」

背後から言ってやる。

「わぁ!」

銜えていた煙草が口からこぼれ、慌てて拾う土方さんがおかしくて笑っていると。

「前も同じこと言われたな。俺の顔見たら禁煙禁煙って」

「病院ですから。傷も治りが遅くなりますよ?」

「あの頃から変わってねェな。俺もおめェも」

変わりましたよ。
あの時から失うのが恐くなった。

何も言えず、笑顔を貼り付けていた私に土方さんが続ける。

「今更だが、教えてくれ」
「何をです?」

「俺から離れた理由」

笑顔が作れない。

「まァ、大方予想はついてるが、俺も仕事仕事で構ってやれなかったし…悪かったな」

「え、や、謝らないでください!私も仕事が大変で連絡もできなくて…」
ごめんなさい、と頭を下げた私の腕を掴んだ。

「今なら」

真剣な眼差しが私に注がれ、思わず目を逸らす。

「私…」

何を今更言おうとしているのだろう。
身勝手な望み。
でも。


「やり直してみねェか?」


思わず仰ぎ見た私から目を逸らした土方さんがぼそぼそ呟いた。

「いや、その、おまえさえよかったらっていうか、」

嬉しい。

嬉しいけど…また前と同じ繰り返しになる。

また、手放さなければいけなくなる…

「……ごめんなさい」

頭を下げた私に何も言わない。

煙草の煙が鼻を擽り、私は顔を上げた。

銜え煙草の土方さんが私の頭をポンと撫でる。

「そんな顔すんな。あの時も、そんな顔してたな」

苦笑する土方さんが別れを告げた時の顔と重なった。

「…そんな顔見たら何も言えねェよ」

でもな、と土方さんが私の頬を抓る。

「もうそんな顔させねェ」

「痛い…」

涙目になった私を見て口の端をあげた。

「俺が、もう離さねェ」

「土方さん…」

頬を撫でる手が温かくて。
自然に頬が緩む。

「退院したらデートするぞ」

「で、デート?」

土方さんの口からそんな言葉が出るとは思わなかったからビックリする。

「行きたい所考えとけ」

そういうと、灰皿に煙草を押し付けてロビーに入って行った。

心臓がバクバクしている。
後ろ姿を身ながら、深呼吸した。




退院の日。
白衣の私が回診をしていると。

真選組の制服の人たちが土方さんの病室に居た。

「おはようございます」

「お!お名前は?ちゃんじゃないか」

「近藤さん、お久しぶりです」

局長の近藤さんも例に漏れず、私が診察したことのある人。

カーテンを閉めて、傷を見る。

「もう退院しても結構です。
無理はしないでくださいね」

私の言葉に土方さんが口の端をあげ、腕を引いた。

ふらついた私の身体が土方さんに倒れ込み土方さんの唇が重なる。

「わっ!」

慌てて離れた私を見てニヤニヤしている土方さん。

「な、何、」

「退院祝いだ」

勝手に口付けしといて退院祝いだなんて…

口をパクパクしたまま何も言えない私の後ろでカーテンを開けた。

「お名前は?ー、顔真っ赤ですぜィ」

目ざとい沖田くんに指摘され、私は慌てて回診を再開した。




休みの日が休みじゃない…
昨日の朝から今日の昼過ぎまで仕事していた私は、やっと帰宅できる、とのそのそと病院内を歩いていた。

丸1日以上、太陽を見ていなかったから眩しくてクラクラする。

携帯を取り出すと、着信の印が光っていた。

「土方さんだ」

昨日の夜に着信有り。
今朝も着信有り。

スミマセン。
心で謝り、リダイヤルを押す。

不機嫌そうな土方さんの声に萎縮し、「スミマセン」とつい謝ってしまった。

「お名前は?か?」
「はい。何度もお電話いただいてて…」
「仕事終わったのか?」
「今終わりました」
「そうか」

何か用事でもあったのだろうか?

「えと、土方さん?」

「帰って寝てろ。夜行く」

「あ、はい」

お言葉に甘えて、家に帰った私は泥のように眠った。


目が覚めた時にはすでに外は真っ暗で、慌てて時計を見る。

8時過ぎ!?

暗い中で携帯が光っている。

土方さんだな…

案の定土方さんからの着信で、私の口から溜め息が漏れた。

前と同じ、繰り返し。

「もしもし」

土方さんはまだ仕事中らしく、ちょっとほっとした。

着替えて待っていると呼び鈴が鳴る。

隊服のままの土方さん。

疲れているその様子に、やっぱり以前と重ねてしまう。

「どうぞ…」

中に促した私の上に被さってきた温かいもの…

「お名前は?」

ゾク。

土方さんの低い声が耳元で響き、身体が震える。

「今日近藤さんと話したんだが」

耳元で言わないで欲しい。
息も吹きかかって、妙な気持ちになるっていうか…

「真選組の専属にならねェか?」

「え?」

「悪い話じゃねェと思う。給料は今より下がるかもしれねェが」

真選組の専属医師か。
魅力的ではある。
幕府直属の真選組の医師になったら幅も広がる。
でも手術や緊急の場合はやはり総合病院でしかできないこともあって。

考え込む私に土方さんが続けた。

「俺の専属でもいいが」

「ひゃっ!」

首筋に顔を埋めて唇が這わされる

唇が触れるところが熱を持ち、立っていられなくなる。

座り込んだ私の前にしゃがんだ土方さんが口の端をあげ、

「まァ、返事は急がねェ。考えといてくれ」

と唇を重ねた。




情事後、隣で眠っている貴方の髪を梳く。

病院で何度も見ていたのに、こうして見る引き締まった身体からは目を逸らしてしまいたくなる。

整った顔。
私を離さない腕。

全てが愛おしい。


専属か…

土方さんと同じ場所で働ける。
それだけで十分魅力的。

もう二度と離したくない。





「お世話になりました」

インターン時代からお世話になっていた病院に最後の挨拶に来た。

医師不足で大変なこの世の中で辞めるというのは大それたことで。

でも幕府勅命が下ったとかで、簡単にやめることができた。

すごいね、お上って。

受け持っていた患者さん達も違う先生に引継したし。

用事が済んでロビーに向かう。


外で待っていた人。

真選組の制服。

立ち上る紫煙。


「土方さん」

駆け寄る私に口の端をあげた。

パトカーでのお出迎えとは……

荷物を詰め込み、助手席に乗る。

銜え煙草でハンドルを握る土方さんがかっこよくて見惚れていたら


「行きたい所考えたか?」


と言われた。

「え?」

「デートだ。デート」

「いや、あの、これパトカーです、よね?」

「どうせ屯所に帰るだけだ」

職権濫用だよ…

「何処でも連れてってやるよ」

「じゃあ…」


私の言葉に笑う貴方がそこに居てくれるだけでいい。

本当はずっと貴方が好きだった。
離したくなかった。

今度は絶対、離さない。



20091015



14000HIT有難うございます★
キリ番申請していただいた須堂まもり様へ捧げます。
「女主が病院勤務の医者。土方さんと別れたものの元鞘…」
私が書くとこんな感じにしかできませんでした(;つД`)
でも久しぶりの土方さんで楽しかったです!
ご精読ありがとうございました。


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