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リク&HIT御礼企画
不知人<彩様 30000キリリク>【土方】
憧れていた真選組。
研修期間をやり遂げて。
私が配属されたのは、監察でした



【不知人】



正式に真選組に入ったと思ったのに、挨拶もそこそこに隠密捜査に抜擢された。

未だ屯所にも行っておらず、局長にも挨拶ができていない。


山崎先輩に連れられて行った所は攘夷志士が集うといわれている料亭だった。

「お名前は?ちゃん、くれぐれも無理はしないでね」

「はい。山崎先輩も」

忍者のような井出達の山崎先輩とは反対に、私は仲居の格好をさせられている。


攘夷志士が集うと言っても、そう簡単に私が担当になれるものではなく。

幕吏も集う料亭ってなんだ一体…

鉢合わせたら大変なことになるんじゃ、と思って聞くと予約制だからそのあたりは大丈夫とのこと。


そんな中、着流しを着た黒髪の男がゴリラみたいな男と現れた。

年配の客が多い中、20代後半からミソジ手前位の客なので印象に残っている。

常連らしく、同じ部屋についた仲居はゴリラと仲良さそうに話していた。

「おまえ新人か?」

瞳孔の開いた目が私を捉え身体がピクリと反応するも、笑顔で答える。

「はい。お名前は?と申します」

杯にお酌をし、飲み干す男にまた注いだ。

「土方さん、私のお酒も呑んで下さいよー」

ゴリラと話していた筈の先輩が、コッソリ私を睨んでくる。

そういうことですか。わかりましたよ。

「お酒取って来ますね」

微笑んだ私が立ち上がり襖を開ける。

出て行った私の腕を掴まれた。

「へ」

「メシでも、行かねーか?」

「あ、はい。
機会がございましたら」

ニッコリと微笑んでお辞儀をし、その場を立ち去った。

口説かれそうになっちゃったよ。ヤバイよ。

素性が知れたら潜入捜査が水の泡だよ。

でもかっこいい人だったから、少し嬉しかったけど。

ん?土方さん?

真選組副長の名前も土方だったような…

いやいやまさか真選組が潜入捜査している場所にわざわざ来るわけがないよね。



その後も「土方さん」はやって来た。

1人だったり、ゴリラと一緒だったり。

決まって私がその部屋につくのが不思議だったが。

廃刀令のご時世なのに帯刀しているところを見ると、幕府の人間か……

攘夷志士には見えないから同じ類の人間なのかもしれない。

「お名前は?」

「はい」

「休みはいつだ?」

「決まっておりませんが」

「昼間は空いてるだろ?メシ付き合え」

「酔ってらっしゃるんですか?」

くすくすと笑った私に土方さんが据わった目で私を凝視する。

「明日俺は休みだ」

だから付き合えと?ご飯に?

勝手な人だ。

「わかりました。では12時に駅でお待ちしております」

捜査は夜の料亭のみ。

昼間くらい、仕事を忘れさせてもらいましょう。



朝方、山崎先輩と成果を報告し合い、纏めたものを手渡した。

「なかなか攘夷志士は現れません。どうしましょう?」

「そうだねぇ。後2週間で3ヶ月か。来週一旦引き上げようか」

「分かりました」





仮眠を取って12時に間に合うように着物を着る。

駅に向かうと着流し姿で銜え煙草の土方さんが居た。

明るい時間にこうして横に並んでいるのが擽ったい。

こうして男の人と歩いていると私も普通の女性に見えるだろうか?

真選組に憧れて入ったものの、常時、刀を忍ばせている身である職業を選んでしまってよかったのかと後悔しそうになる。

「お名前は?と居ると嫌なことも忘れられる」

「お役に立ててよかったです」

食事をした帰り道、少し先を歩く土方さんが言葉を紡ぐ。

「なァ」

「はい」

立ち止まった土方さんが真剣な表情で私を見据えた。


「ずっと、俺の傍に居てくれないか」


心臓が掴まれる。

違う。これは違う…仲居である私に対しての言葉であって…

口を開いた土方さんに私は耳を塞いだ。

「好きなんだ。お名前は?が」

耳を塞いでも入ってくる低い声。

「ダメなんです…私…」

いっそのこと打ち明けられれば楽になるのかな。

「俺が嫌いか?」

首を横に振り、私は続けた。

「来週で、あの料亭は辞めるんです」

「辞める?」

「料亭に居る私を好きになってくれたんですよね?だから、」

「おまえだから好きなんだよ」
辞めても関係ねェ、と土方さんの腕が私に伸びてきた。


「嫌いじゃねーなら付き合え」


強い口調とは裏腹に、優しく抱き寄せられる。

「……私も、好きです」

思わずそう答えてしまっていたのは、「私だから好き」と言ってくれたことが嬉しかったからかもしれない。






隠密捜査を終え、山崎先輩と共に屯所へ帰る。

「初屯所ですよ!ドキドキします」

「局長もいいお人だから安心してよ。副長は怖いけどね」

「そ、そうなんですか…」

研修期間時から真選組の制服は支給されてあったので、今日はそれを着ている。

ちゃんと部屋もあるらしく、これから始まる真選組屯所での暮らしが楽しみだ。

とその前に、隠密捜査の報告を副長にしなければならない。

「先に局長にご挨拶に行ってきてもいいですか?」

山崎先輩に断りをいれ、局長室へと地図を片手に廊下を歩く。

ピロロローン

軽快に携帯電話が鳴り響く。

「あ」

マナーモードにするのを忘れていた。

「おい。局中法度に背いたものは切腹、」

襖が開いて低い声に思わず身構える。

「……あ?誰だ、え、お名前は??
いやいや違うぞたぶん」

呟きに顔を上げると、瞳孔の開いた土方さん…

「ひ、土方さんって、あの土方さんだったんですか!?」

驚いてしまって大声で指を差した私に慌てて部屋に入れると襖を閉めた。

「なんで制服着てんだ?なんで此処に居るんだ?」

矢継ぎ早な質問に、私は姿勢を正して答える。

「隠密捜査であの料亭に潜入していました。副長とは存じあげず、大変失礼を致しました」

「いやだから、」

「失礼致します」

深々とお辞儀をし、部屋を出て行こうとした私の肩を掴む副長。

「部下だろうが、恋人には変わりねェだろ?」

「え、」

「俺には好都合だ」

口端をあげた土方さんに口付けをされた。

「ちょっ!ダメですよー…」

「監察クビにしてやっから、副長補佐になれよ」

やっぱり勝手な人だ。

「監察が楽しいから嫌です。これからも宜しくお願いします。副長」

ニッコリと微笑んだ私にちっと舌打ちをした土方さん。



「あれ?お名前は?ちゃん局長には挨拶に行ったの?」

山崎先輩の声に土方さんが私の腕を持って立ち上がる。

「迷ったのか?連れてってやるよ」

「め、滅相もない!副長の手を煩わせるなんて」

「そうですよ。副長にはこの報告書に目を通してもらわないと、ぐはっ!」

山崎先輩の鳩尾に土方さんの蹴りが入った。

「えぇっ!!」

「行くぞ」

失神した山崎先輩を置いて私は引き摺られるように局長室へと連れて行かれる。


「ふ、副長ー…」

「副長じゃねェ」

「…土方さん」

「なんだ」

「腕、痛いです」

「あ」

痛いくらい握られていた腕を離されてほっと息を吐く。

「メール」

「メール?」

先程鳴った音はメールだったのか、と携帯電話を開くと土方さんからのメール。

「返事は?」

「えと、……了解しました」

パタンと携帯電話を閉じて見上げると、口端を上げて笑われる。

不覚にもときめいてしまった私は目を逸らして外の景色を見つめた

"明日メシでもどうだ?"

短いメール。

「あ、でも仕事があったら無理です、けど」

「あ?誰が副長だと思ってんだ?夜は休みにしといてやる」

「…職権濫用だ」

言ってろ、と笑う土方さんが先を歩き、私はその後ろ姿に微笑んだ




20091207



30000HIT有難うございます★
キリ番申請していただいた彩様へ捧げます。
「土方さんの片思いから振り向かせたら潜入捜査中の部下だった!お互いの立場を知らない2人」
こういう女隊士ネタ、よそでも読んだことがなかったので書いていて楽しかったです!!
ご精読ありがとうございました。


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