BL短編小説
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「俺達親友だろ?」
アイツの言葉が俺の胸を抉る。
「失恋した親友を慰めてくれよ」
俺達は所詮親友以上の存在にはなれない。
「わかった、わかった。ほれ、飲め」
下戸の俺の部屋に常備されている、アイツの為の酒を更にグラスに注ぐ。
「お前の良さがわからないなんて、残念な女だな」
「うー……有り難う! お前もイイ奴だぜ!」
酒の回りが早いのか、アイツは俺の肩を抱き寄せ、バシバシ叩いた。
「買い被るなよ。そんなにイイ奴でもないぜ」
現に溢れんばかりの不埒な思いで、アイツのグラスに酒を注いでいる。
やがて、飲み過ぎたアイツは床に転がり、深い寝息をたて始めた。
さりさりと音をたててアイツの髪をすく。眠りが深いのか、まるで反応を示さない。
ベッドに連れ込みたいが、親友と言う立場では不自然だろう。クッションを枕にし、厚手の毛布を掛けた。寒くはないだろう。
アイツの頬にそっと触れた。反応がない事を確認して、顔を近づける。
ほんの一瞬、唇を触れ合わせた。理性を総動員して、顔を離す。首筋がギリギリと軋んだ。
アイツの傍らに座り込み、静かに重いため息を吐いた。
こんな軽いキスひとつで身体中の血が騒ぎ出す。重症だ。
もう一度、アイツが深く眠っている事を確認して、バスルームに向かった。
シャワーを浴びながら、アイツへの熱い欲望を何度も吐き出した。何度も。
あと少しでのぼせるんじゃないかと言う頃、漸くバスルームを出た。
リビングでは、相変わらずアイツが眠っている。寝返りくらいはしたみたいだった。
いつまでアイツを眺めている自分に気付き、ベリベリと無理矢理視線を引き剥がして寝室へ引っ込んだ。
ベッドにノートパソコンを持ち込み、苦手なホラー映画のDVDを再生して横になった。アイツに夢に出て来られちゃ堪らない。
翌朝、アイツと食べるために、和風の朝食を用意する。
まるで同棲しているかのようなシチュエーションは、軽いキスだけで我慢出来た自分へのご褒美。
いつまでも親友でいるためには、大切な我慢だ。今回もアイツは気付かない。
いつまでも、いつまでも、俺の思いに気付かないでいてくれ。そして何度も、何度も、女に振られてくれ。
end.
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