[携帯モード] [URL送信]

BL短編小説
2-5
 コートの下にはフリース、長袖Tシャツ、ヒートテックの長袖シャツを着ている。穿いているカーゴパンツは中綿入りの断熱素材、その下にはヒートテックのスパッツ。足元のブーツの中は、ふわもこの靴下。
 かなりの厚着だ。
「大丈夫か? そう言や、マフラーを忘れてたな」
「うん、大丈夫。このコート暖かい」
 スーパー銭湯の建物は、普通の一戸建てよりかなり大きい。
「これが風呂?」
「中身全部が風呂な訳じゃない。ま、取り敢えず入ろう」
 中に入ってロッカーに靴を仕舞うと、すぐにカウンターが目に入る。客ならばここで入浴料金を払う事になるが、今日は違う。
 カウンターにいるスタッフに、アルバイトの募集に応じて来た事を告げる。俺がスタッフと話している間、琥珀は周囲に視線を走らせていた。
 この場所から見えるのは、風呂場の入口と、プロのマッサージを受けられるリラクゼーションサロンの入口、それから軽食コーナーだ。琥珀は物珍しそうに瞳を輝かせている。
 アポイントメントを取っていたので、すぐにもマネージャーがアルバイトの面接をしてくれる運びとなった。


「まず、お名前を伺いましょうか」
 挨拶の後、マネージャーはそう言った。
「名前……柏葉琥珀です」
 琥珀に書かせた履歴書には、たどたどしい字で『柏葉コハク』と書いてある。
 家族構成は従兄の俺のみしか書かれていない。その他も空欄だらけだ。
「ご出身はどちらですか?」
「インドネシアです。18歳の時に、お母さんが結婚して、一緒に日本に来ました」
「今、一緒に住んでいるのは誰ですか?」
「従兄の柏葉信之さんです」
 なんだろう、これは。アルバイトの面接と言うより、身上調査のような……いや、履歴書に書いてある事までわざわざ聞くと言う事は、日本語の習熟度合いも確認しているのかも知れない。
 ここは、琥珀だけに対応させるしかない。ハラハラしながらやり取りを見守る。
「……わかりました。では、一ヶ月の試用期間の後、問題がなければ本採用に致します。頑張ってください」
 琥珀が戸惑い顕に俺を見る。慣れない単語で理解出来なかったようだ。笑顔で頷くと、琥珀の表情も輝いた。
「あ、有り難うございます!」
 嬉しそうに頭を下げる琥珀に合わせて、俺も頭を下げる。
「不慣れな事も多々あるかと思いますが、物覚えは悪くないので、ご指導の程宜しくお願い致します」
 その後、シフトの相談と制服のサイズ合わせをしたのだが、かなり着込んでいる琥珀に「流石に南国生まれだ。寒がりなんだね」と、笑いが上がった。


[*前へ][次へ#]

9/10ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!