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BL短編小説
2-3※R18
 焦れた俺はもう一度琥珀の唇を塞ぎ、今度は緩んでいる隙間から舌を侵入させて、呆気にとられたままの琥珀に絡める。
「ふ……ん……」
 間も無く琥珀の理解が追い付いたのか、器用な舌が俺の口腔内を刺激し始めた。
 下半身の苦痛を凌駕する、甘い心地好さが全身に広がっていく。
 俺の声に苦痛が和らいだのを感じたのか、琥珀が俺の中にある自身を少しずつ動かし出す。
 キスで与えられた快楽が勝って、大した痛みは襲って来ない。
 いや、それよりも、困った事に快楽がどんどん強くなっていく。何せ、俺の中に収めなかった琥珀のもう片方が、動く度に俺のムスコを刺激してくるのだから。
「んっ……ふっ、うん……」
 琥珀が繰り返しキスを仕掛けてくるせいで、上がり出した喘ぎも琥珀の口の中に吸い込まれていく。


「んふっ……ん、んんっ……」
 相変わらず琥珀は小刻みに動いているだけだけど、散々時間を掛けられて、俺の中の熱はぎりぎりのまで高められていた。
「ふあっ! あっ! あぁっ、もっ、イク!」
 今まで味わった事のないような快感が背筋を貫き、全身を震わせながら琥珀にしがみついて熱を吐き出した。
 キスをほどいた琥珀は、呼吸の荒い俺の目をじっと見詰めると、目尻に舌を這わす。
「あ……あれ? あの、琥珀はまだ……?」
 俺の中に収めたままのも、腹に当たっているのも、硬くて太いままだ。
「うん。まだまだ、足りない」
 俺の呼吸が少し落ち着いたのを見て取った琥珀は、再び腰を揺すり出した。
 激しく動く事は無いけれど、俺の反応が良い所を的確に刺激してくる。


「あっ、やっ! も、駄目っ!」
 俺は何度イカされただろうか? クタクタなのに、いちいち快感に反応して震える体が恨めしい。それなのに、琥珀は体力が衰えないし、萎えもしない。
「信之……信之……は……イイ……」
 体を小刻みに揺すって、うっとりとした囁きを俺に流し込む。
 夕飯も食っていないのに、カーテンの外がうっすら明るい。俺には腕を上げる体力すら残っていない。
 疲労でそろそろ意識が朦朧としてきた頃だ。
「信之、信之! あっ、はぁあっ!」
 耳元に熱い息を吹き込み、琥珀の体がひときわ大きく震えた。
 ややあって、琥珀が俺の中から出て行くのを感じ、意識がフェードアウトしていった。やっと終わった、と言う安堵を最後に覚えて。


「信之! 信之! 大丈夫か?!」
 琥珀がひっきりなしに、俺の頭や頬を撫でてくる。
「信之! ごめんなさい。俺、俺……」
 俺がうっすら目を開けると、狼狽えた琥珀が、両手で頬を挟んで目を覗き込んできた。
「……今……何時?」
 酷くしゃがれた声に、琥珀が携帯電話の時刻表示を見せてくれる。
 Mon AM6:57
 セーフ。まだ出勤時間じゃない。でも、身を起こすどころか、腕だってまともに上がらない。
 年度末で忙しい時期だけど、今日は出勤出来る状態じゃない。
「8時に起こせ。それまで添い寝しろ」
 なんとかアラームをかけて、琥珀を隣に呼び寄せる。低い体温に、心地好い眠りに誘われた。


 酷い声のお陰で、病欠はあっさり納得された。
「信之……ごめんなさい。……俺、こんなになるなんて知らなくて…………えっと……俺とスルの、もう嫌?」
 ベッド脇に座り込んだ琥珀はすっかりしょげている。
「まず、水、飲ませろ」
 俺の指示に、ワンコよろしく琥珀はキッチンにすっ飛んで行き、すぐに引き返して来た。
 コップ1杯では足らず、3杯飲んで漸く落ち着く。
 体を支えてもらっていたけれど、腰がガクガクでどうにも動けない。
「嫌じゃない。けど! またすぐに、ってのは無理だ。体がもたない」
「信之! 俺、嬉しい!」
 感極まった琥珀が、俺を抱き締めキスを繰り返す。
「キスって気持ち良いんだな。初めて知った。あ、キスは大丈夫だよな?」
 返事の代わりに頭を撫でてやると、嬉しそうに頬を緩めるが、俺はもう横になりたい。
「もう、もたない。寝かせてくれ。琥珀も一緒に寝ろ」
 そう言うと、琥珀は頬を緩めたまま、布団の中に潜り込んできた。体中ベタベタカピカピしているし、シーツもグジャグジャだけど知った事か。今はひたすら体を休めたい。


 日が沈んだ頃、漸く自力で起き上がれた。
 既にシャワーを済ませた琥珀に指示を出し、シーツを交換して洗濯もさせた。
「腹、減った……」
 さっぱりした体で、綺麗になったベッドに倒れ込む。
 料理をする気にならないが、琥珀の事を考えると安易にデリバリーを頼めない。火や刃物は危険だからと、琥珀に料理を教えなかった事が悔やまれる。
 一食分の冷凍鶏肉をレンジで温め、俺の夕飯は茶漬けで済ます。
 食器の片付けを琥珀に任せて、再びベッドに倒れ込んだ。


 翌日、ガタガタの体に鞭打って、なんとか支度を済ませて出勤した。通勤ラッシュの電車がこの上なく辛かった。
「あれ? 柏葉君、どうしたの? ぎっくり腰でもやったの?」
 余りにもぎこちない動きは、課の先輩に即座に気付かれる。昨日は病欠したのだから、確かにこれは腑に落ちない状況だ。
「あ、あの、咳き込んだ拍子に変に腰捻っちゃったみたいで……」
「そう。お大事に」
 納得してもらえたようで、密かに胸を撫で下ろす。
 机の上には、昨日の分の未処理書類が山とある。さっさと処理しないと。


「すいません! 昨日出した伝票、確認させてもらいたいんですけど……」
 午後、何かミスがあったのか、他部署の石井が俺のデスクに近付いてきた。
「昨日の? ちょっと待っ……! !!」
 午前中に整理したファイルに、座ったまま手を伸ばした時に、背筋に鋭い痛みが走った。
「柏葉君ね〜、ぎっくり腰やっちゃったんだって〜」
 声も出せない、動けもしない状態で悶絶する俺の代わりに、向かいのデスクの先輩が説明してくれた。
「ぎっくり腰……?」
 石井が切れ長の目を見開いて、俺をまじまじと見詰める。なんだか居たたまれない。
「俺がマッサージしてやろうか?」
「は?」
 突然何を言い出すんだろうか。こいつは。
「俺の腕はセミプロだぞ。大体このままじゃ、明日の仕事にも差し支えるだろう?」
 そう言って、いつも爽やかな同期の顔が、意味深な笑に歪んだ。
「と、言う訳で、仕事が終わったら、早速お前の家に行くからな。で、昨日の伝票、このファイルに入っているのか? 」
 俺が手を伸ばしたファイルを渡してくれる。
 昨日の伝票を抜き取って渡すと、石井はいつもの爽やかさで、向かいのデスクの先輩に笑い掛けた。
「すぐに返しに来ます。それから、柏葉は俺が責任持って家に帰しますので」
「えっ。ちょっ、石井っ」
「はーい。任せたわよー」
 この笑顔を向けられた女性は、大抵奴の言う事を聞いてしまうので、先輩は俺の終業を石井に連絡するだろう。断る隙もなく、今夜石井が家に来る事が決まってしまった。
 ヤバい。琥珀の事をなんて説明すれば良いんだ。どう見ても、俺達の間に血の繋がりは感じられない。しかも、しかも! あの部屋にはベッドがひとつしかない!
 内心冷や汗をびっしょりかきながら、仕事をしていた。


「お疲れ様です」


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あきゅろす。
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