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BL短編小説
8※R18
 軽く合わせた唇を一度離し、閉ざされた武志の唇に軽く舌を滑らせると、ほんのりと隙間が開いた。躊躇無く舌を潜り込ませたが、武志の体がビクリと跳ね上がったので慌て引っ込めて、武志の顔を窺った。はっきりと血の味がしたのだ。
「ごめんっ、痛かった? あの……口の中、切ってる?」
 武志は顔をしかめて口元を押さえている。左頬も少し腫れてきていた。
「圭祐、今日のバイト夕方からか?」
 口元を押さえたままの、若干不明瞭な声で武志が訊いてきた。先程までの甘い空気は殆ど霧散してしまっている。
「ああ、そうだけど……」
 石井が答えると、武志は立ち上がり、視線を僅かに逸らしながら口を開いた。
「お前ん家、行って良いか?……んー……いや、行くぞ」
「え? あの……」
 さっさと歩き始めてしまった武志に「もたもたすんな」と急かされ、石井は慌て後を追った。


 石井のマンションに着き、武志は促されるまま部屋に上がった。
「お邪魔シマス」
 少したどたどしく言葉をつむぎ、所在無く部屋の真ん中に立ち尽くした。
 玄関にしっかり鍵を掛けた石井が近づき、背を向けたままの武志をそっと抱き締めた。
「あの、武志、本当に?……」
 石井は未だに信じられない気持ちでいっぱいだった。あのままずっと、親友と言うポジションに置かれるのでは、と思っていたのだ。
 少し間が有ったが、腕の中の武志が身じろぎ、石井と向かい合った。
「さっきさ……家族のために我慢してる筈だったのに、圭祐の事ばっか頭に浮かんで来てさぁ……」
 ことり、と圭祐の胸に頭を預け、囁きを溢した。
「好きだ……」
 圭祐の背に廻した腕に、ぎゅうっと力を込めてその胸に言葉を響かせる。
「ずっとお前を見ていたい」
 圭祐の胸に顔を埋めているが、朱に染まった耳ははっきり見られている。
「嬉しい。凄く嬉しい……もう一度言って」
 笑み崩れた顔で促すと、武志は茹で上がった顔をがばり、と起こす。
「う、えっ、いえ、そう何べんも、言えるかっ」
 噛みまくりで却下した。
「えぇ? 俺は何度だって言えるよ。武志、好きだ。大好きだ」
 真っ直ぐな石井の態度と言葉に、武志は照れてじたばたともがく。けれど、しっかりと石井にしがみついた腕はそのままだ。
「もう、武志可愛い! 好きで好きで、堪らない!」
 武志の頭に頬を擦り寄せると、肩口を拳で叩かれた。
「おっ、男に『可愛い』は無いだろ!」
「大丈夫! 武志が格好良い事も、俺はちゃんと知っている」
「〜〜っ! は、恥ずいからそれ以上言うなっ」
 武志は足踏みをして暴れたが、頬を撫でて促すと素直に石井を見詰めた。
 石井は右頬に唇を落としてから、一度武志の顔を窺った。嫌がる素振りは無い。どころか、潤んだ瞳はその先を望んでいるようで――
 再び二人の唇が重なった。本当は余す処無く貪りたいが、武志の口内や左頬の傷を考えると、余り深い口付けは無理だと思われた。ちゅ、ちゅ、と音を立てて啄むような軽いキスが繰り返された。


「おい、この硬いのは……ナンダ……」
「あ……いや、ご、ごめんっ! 男なんだから仕方無いと思ってくれ! 好きな相手が腕の中に居るんだから……」
 最後の方は尻すぼみに訴えた石井は僅かに腰を離した。
「あの、まだそこまでは……えっと、だから、ト、トイレ行かせて?」
 わたわたと離れようとした石井を、武志はがっちり掴まえた。
「いいぜ」
 言葉を無くして目を見張る石井に、更に畳み掛ける。
「覚悟が無きゃ、部屋までのこのこ来たりしねぇよ」
「だって、さっきのさっきで……嫌じゃない?」
 ゆるゆると首を振る石井の頬が、武志の両手で押さえられる。
「お前なら……圭祐なら、ヤじゃない」
 その唇にちゅ、と軽いキスが送られた。
「但し、ヤり方とかちゃんとわかってんならな」
「武志、やっぱり男前! 格好良い!」
 きつく抱き締めた武志に頬ずりをして、石井はその体を抱き上げてベッドに運んだ。
「俺、一応それなりに調べたりしたから」
 ベッドにそっと横たえた武志にキスの雨を降らす。
「ちょっと待ってて」
 石井はクローゼットの中からローションのボトルとコンドームの箱を取り出して来た。
 それらをベッドの枕元に置いて、再び武志に覆い被さる。上着の裾から忍ばせた手に肌を撫でられると、武志の肩が跳ね上がるように震えた。
「あ……や、やってらんねっ」
 慌て体を起こして自分でばばっ、と服を脱ぎ捨て、あっと言う間に全裸になってしまった。
「お前もさっさと脱いじまえ」
「えぇ〜。もっとこう、情緒とかさ……」
 石井は反論しかけた口をつぐんだ。武志が小さく震えている事に気付いたのだ。
 石井も自ら服を脱ぐと、武志に口付けた。
「武志……武志……武志……」
 一回、一回武志の名をつむぎ、徐々に降りて行った唇は武志の胸の飾りに到達した。
「ひゃっ」
 唇で啄み舌で転がすと、武志は少々間の抜けた声を上げた。
 一旦唇を離し、武志と目を合わせる。
「武志、大丈夫だから」
 指を絡めて武志の手を握ると、きゅ、と握り返してくる。
 今度は反対側の胸に唇を寄せて尖りに吸い付く。空いている手を下腹部に滑らせ、武志の中心に触れた。
「は……あぁっ……」
 武志が吐息のような声を漏らす。まだ少ししか芯の通っていなかったそこをやわやわと刺激していくと、すぐにも硬く変わり、先端に露が浮かんできた。
「あっ……んん……あ、やっ……」
 早くも武志は腹筋を波打たせ、切羽詰まった声を上げだした。
「武志……武志……」
 名を呼びながら手を離し、石井はローションのボトルを手に取った。
 武志の足を開かせて、奥まった蕾にローションで濡らした指を充てた。
「武志……俺を見て」
 緊張で閉じていた瞼が震えながら開かれ、潤んだ瞳が石井を見上げた。
「武志、大丈夫だ」
 その声に武志が小さく頷いたのを見て、石井は孔の周りを撫でていた指をつぷりと侵入させた。
 一本の指を根元までゆっくり侵入させて抜き差しを始めると、武志の眉間に皺が寄った。
「武志、痛い?」
 指を止めて尋ねると、首が振られるが、眉間の皺は消えない。
「なんか……すげぇ、変な感じ」
「じゃあ、これは?」
 石井は再び武志の屹立に指を絡め、強弱を付けて手を動かした。
「あぁっ……はっ……はぁっ……」
 武志は途端に嬌声を上げだした。
「気持ち良い?」
 返事すら出来ない武志は、こくこくと首を縦に振る。その隙に石井は二本目の指を侵入させた。
 抜き差しを繰り返し馴染んできた頃を見計らって、武志の屹立に添えた指の腹で先端をくるくると撫でた。
「あぁっ! それっ、ダメっ!」
 陸に揚げられた魚のように武志の体が跳ねる。その動きに合わせて、石井は三本目の指を入れた。
 三本の指を無理無く動かせるようになった頃、石井は漸く手を止めた。
「武志、良い? もう、俺辛いんだ……」
 石井の屹立は、触れもしないのにはっきり形を変え、びくびく震えて濡れていた。


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