どうしてこうなった
相談関係
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明彦は俺の同居人兼幼馴染。
幹夫は明彦の恋人。
俺は………二人の何なのかわからないが、この住まいの提供者。
ほんと、変な関係だよな、俺達。
「はぁ………」
「どうした?疲れてんのか?」
俺は何やら疲れた様子で朝起きてきた幹夫の様子に何気なしに尋ねると、幹夫は「何でもないし」と不機嫌そうに、テーブルに腰を下ろした。
うーん、セックスのしすぎで腰でも痛いのだろうか。
まぁ、あんだけ毎日やってりゃ仕方ないか。
「あんま、毎日ヤりすぎでるからじゃなーねーの?」
「何、嫉妬?」
「………誰に対してのだ?」
「……もう、ちょっと黙れよ」
おう、何か本当に疲れてみたいだな。
俺はいつになく顔に疲れを見せる幹夫に、なんだか少し心配になると、キッチンに行って軽くハニーカフェラテでも作ってやる事にした。
あれ、微かな甘みが凄く気分を和らげてくれるから俺は好きだ。
確か、幹夫は甘いモノは大丈夫だった筈だから大丈夫だろう。
ついでに明彦が起きてきた時の為に、明彦の分も作っておいてやるか。
「ほい、これ飲んで少し横になれば?」
「……何これ?」
俺は怪訝そうな表情でカップの中を見つめる幹夫に「ハニーカフェラテ」と答えると、幹夫にコップを手渡した。
「それ、意外と疲れた体にも効くからさ。顔色も悪いし、できるなら今日は午前中だけでも学校休んだら」
「………休む程のことじゃないし」
「そうかい」
俺は、ふいと俺から視線を逸らす幹夫に、それ以上追及する事はせず、自分の学校の準備を始めた。
今日は2限からだから、ゆっくり準備しても大丈夫だ。
俺がバックの中からいらない教科書を取りだそうと、バックに手をかけた時だった。
「………おいしい」
小さな声でそう呟く、幹夫の声が俺の耳を掠めた。
それが何ともいえず、本当においしいと思って呟いたとわかる声だったので、俺は小さく笑った。
だって嬉しいじゃないか。
あんなに不機嫌だった奴が、俺の淹れたハニーカフェラテで素直になってくれたんだからな。
けど、多分ここで幹夫に「おいしいだろ?」と、これみよがしに問えば、きっと幹夫の機嫌はまた機嫌を悪くしてしまうだろうから、俺は聞こえなかったふりをする。
どうだ。
だいぶ俺も幹夫の行動を把握できるようになったぞ。
「…………ねぇ」
「へ?」
と思ったら、何かいきなり幹夫が先程と同じ呟く様な音で、でも確かに俺に向かって尋ねているであろう言葉を俺に向けてきた。
「どうした?」
「あのさ………」
なんだ、なんだ。
珍しい事もあるもんだ。
幹夫がこんなに弱弱しく俺に接してくるなんて。
普段のあの辛らつさはどうした。
もしや、明彦と喧嘩でもしたのか。
俺がふとそんな事を考えていると、幹夫は自分の通学かばんから何やら1枚の紙を取りだした。
「アッキーさ……自分の進路って、いつ、どうやって決めた?」
「進路……」
予想外にも真面目な話に俺は驚くと、幹夫の取りだしてきた紙を見た。
そこには進路希望調査、と書かれており、それは主に大学進学者用の用紙だった。
「俺、一応大学進学クラスなんだけどさ……別に行きたい大学もないし。これ、今日提出なんだよ。もう、困ってるのなんのって」
「へぇ、幹夫が進学クラスにねぇ」
「何、今までアッキー俺の事バカだと思ってたわけ?」
思わず頷きそうになる自分の頭を、俺はなんとか横に振り、とりあえず進路希望調査を見ているふりをした。
いや、だって思うだろ。
此処に来て毎日セックス三昧の日々を送ってる男が頭がいいなどと誰が思うだろうか。
……いや、待てよ。
でも、幹夫は何気に毎日いくら激しいまぐわいを明彦と行っていても、次の日はきちんと朝に起きてくる。
俺にはそれがどんなに大変な事なのか凄く良く分かる。
なんたって経験者だからな。
「幹夫は……頑張ってるからな」
「………まぁね」
「でも行きたい大学はないんだ?」
「無いよ。とりあえず選択肢の幅をせばめたくないから、一通り勉強はやってる感じだから」
えらっ。
何だコイツ。
いつも夜近所迷惑な程あられもない声を上げる奴と、本当に同一人物か?
何気その深夜とのギャップに、少しばかりキュンとしたぞ。
俺、こんな風に頑張ってるヤツ好きだ。
凄く好感度が上がったぞ、幹夫。
「幹夫は偉いな。そうだよ、どうせなら選択肢の幅は広く持ってた方がいいもんな」
「まぁ、今は広がりすぎて選択に迷ってるんだけどね」
「そりゃあ、羨ましいな」
「全然羨ましくないし。昨日先生から呼び出されて、何かと思えば俺の行けそうな大学全部ピックアップして見せてくんの。期待してるんだかなんなんだか知らないけど、ここ行けあそこ行けだの………ほんと、ウザい。お陰で明彦とのセックスも集中できなくて昨日は不完全燃焼だったよ」
「そうかい……」
やっぱりコイツの思考は此処に行きつくんかい。
全く、このセックス依存症め。
「………ちょっと参考までに聞きたいんだけど……アッキーはさ、どうやって進路絞ったの?」
「俺は………そうだな。俺もこれと言ってやりたい事なかったから、一番偏差値が近いとこって感じで決めた」
「……やっぱ、そんなもんなの?」
「え、うん。こんなもん。別にやりたい事があるわけじゃなかったし、とりあえずって感じ」
「自分の将来だよ。そんな簡単……決めちゃってよかったわけ?」
「いや、俺はむしろ、この何もまだ社会の事がわかっていない状況で自分の将来を決めろっていわれる方がおかしいし、むしろ決められもしないのに無理やり決める方が怖いと思うけどな」
「………まぁ、確かにそうかもね」
「だからさ、幹夫は幹夫でお前のこれまでのスタンスを崩さないように進路っつーか、大学選べばいいんじゃないか?自分の進路を狭めることなく広げる事のできる学校っつー視点で学校選びしろよ」
「…………それで……いいと思うか?」
「良かったかどうかは、大学選んで行った後の自分の行動次第だろ。就職にしても進学にしても、そこは変わらない。要は決定した事柄より、その後だって事さ」
「…………」
「まぁ、俺の個人的な感想を言わせてもらうと……幹夫ならどこ行ってもちゃんとやれると思うよ」
こんなセックス漬けの毎日でも勉強やれてんだからな。
マジで尊敬するわ。
「ねぇ」
「ん、何だ」
俺は何か考え事をするように、進路希望調査を見つめる幹夫に目を向けた。
すると、今まで進路希望調査を見つめていた、幹夫の目がチラリと俺に向けられる。
「アッキーって……どこ大行ってんだっけ?」
「あ、俺?俺は薬場大だけど」
「……ふぅん」
「ま、なんか大学の事でわかんない事あったら俺に聞けよ。大したアドバイスは言えないけどな」
「うん」
おー、今日はやけに素直だな。
元が美少年だからこう素直だと本格的に可愛いぞ。
「アッキー」
「ん?」
「また、コレ作ってよ」
そう、幹夫が俺を見ずに言ったモノは、先程手渡したハニーカフェラテだった。
どうやら気に入ってくれたようだ。
「いいよ。いつでも作ってやるから。飲みたくなったら言えよ」
「ん、ありがとう」
「………どういたしまして」
その日を境に幹夫は少しだけ……本当に少しだけ、素直になった。
明彦は俺の幼なじみ兼同居人。
幹夫は明彦の恋人兼俺の……
後輩、かな。
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