どうしてこうなった
優しい関係:下
「ほら。いい加減機嫌直せよ」
「別に……機嫌悪いわけじゃないし」
「そうかい、なら良かった」
「…………ねぇ、」
「んー?」
「アッキーってさ、いつもこのソファーで寝てんの?」
「え。うん、そうだけど」
だって寝室はお前らの城だからな。
俺の立ち入りは禁止されてるよ、あそこは。
「体さ、痛くないか?」
「んー、別に。このソファ、結構こだわって選んだからさ、意外とリッチなんだぜ」
「………馬鹿だよ、アッキーって」
「え、そうか?」
なに、いきなり馬鹿扱いっすか。
ヒデェ。
っつっても、今日はお前に此処に寝てもらわなきゃなんねぇからな。
そんなにこのソファをバカにしてられないぞ。
「まぁ、ほんと、このソファ寝心地はいいぞ?」
「……馬鹿だよ、アッキーは」
まだ言うか。
「あのベッドだって本当はアッキーのなのに」
「あー、幹夫さ。もしかしてベッドの事気にしてんの?」
「………当たり前だろ」
あー、なに、これ。
ちょっと感動なんだけど。
今まで明彦から、こんな言葉かけてもらった事ないせいかな。
凄く嬉しい。
見返り……とはちょっと違うが、気を使ってもらえるって嬉しいもんだな。
「気にすんなよ。俺、別にソファで寝るのヤじゃないし」
「……あのさ、もう、毎日はヤんないから……その時はベッドで寝ていいよ」
なんと。
ちょっとマジでびっくりした。
まさか幹夫からここまで言って貰える日がこようとは……。
でも
「いいって。俺の事は気にすんな。気持ちだけもらっとくよ」
「……なんで?俺達が毎日使ってるベッドだから、嫌なのか」
うーん、それも半分あるな。
確かに毎晩毎晩、様々なプレイで酷使されたあのベッドで今更寝たいとは思わない。
けどな。それ以外にも理由ってやつがあんだよ。
「別にお前らが使ってるから嫌ーとか、そんなんじゃねぇよ」
「……じゃあ何でだよ。アッキー、ずっとこんなとこで寝てたら……体壊すぞ」
もう何この子。
感動過ぎるんだけど。
幹夫…いい子だな。
「そんくらいじゃ体壊さねぇよ、ほんと……大丈夫だから気にすんな」
「……ベッドが嫌ならシーツもカバーも換えとく」
「だからベッドは問題じゃねーって」
「じゃあ何で!?だいたいあの部屋はアッキーの部屋だろ!」
おいおい、急にどうしたんだよ。幹夫。
でもまぁ、お前がいいっつても俺はあの部屋に入れない理由があんだよ。
けどなぁ、言っていいんだろうか。
でも理由言わないと、幹夫納得しなさそうだしなぁ。
「明彦にさ、アッキーは寝室入っちゃだめーって言われてんだよ」
「……な、なんで!?」
何でって……そりゃあお前
「幹夫が嫌がるから入らないでって、幹夫が来た一番最初の日に言われたんだよ」
「…………あ」
あー、やっぱ忘れてるよなぁ。
やっぱ言わない方がよかったか?
幹夫って結構常識人だから、今、変な罪悪感とか感じそうだ。
「ご……ごめん、俺が最初に明彦にそう……言って……あぁもう」
「いやいや、だから俺はここで十分だから。別にいやいや追いやられたわけじゃねぇから気にすんなって」
やっぱり気にし始めたな。
やっぱ言わなきゃよかった。
「もう俺気にしないから。アッキー部屋入っていいよ。………もう、俺……ごめん、アッキー」
「ほらほら、別に俺気にしてないし。そんなに気にするな。カフェラテ飲めよ」
俺が幹夫の肩を叩きながら、台の上に置いていたカフェラテを幹夫に差し出すと、幹夫はぼんやりとカフェラテを握りながら、小さな声で呟いた。
「アッキー、アッキーは……俺の事嫌いか?」
おいおい、幹夫本当にどうしたんだ?
変だぞ、お前。
「嫌いなわけねぇだろ。つーか幹夫お前……まさか」
俺はぼんやりと視点がハッキリしない幹夫の額に、ゆっくりと手を当ててみると、案の定幹夫の額は焼けるように熱かった。
……どうやら、幹夫は見事に明彦の熱を貰ってきてしまったらしい。
俺は幹夫の額から手を離すと、急いで幹夫をソファに横にさせた。
「な?なに、アッキー?」
「お前、明彦に風邪うつされてるぞ。ほら、布団持ってきてやるから寝てろ」
「ちょっと!俺がここで寝たらアッキーは……」
「ほら、病人は黙って寝てろ!ほらよっと」
俺は明彦の上に布団と毛布をかけてやると、急いで氷水を作って幹夫の額に乗せた。
「ほら、お前ももともと疲れがたまってたんだよ。明日は学校休め」
「アッキー、俺、大丈夫だから………」
「大丈夫じゃないだろうが、お前受験生だぞ?早く治せ。明日はお前と明彦の好きなもの作ってやるから………寝ろ」
そう言って布団の上からあやすように、幹夫の体を叩いてやると幹夫は途端に目に涙をため始めた。
しかも、先程までそうでもなかったのに、徐々に顔が赤くなり始めている。
あーぁ、こりゃ熱が上がるな。
「アッキーはバカだ。バカだよ」
「はいはい、俺はバカですよ。ほらほら、泣くな。大丈夫だから」
「うー、うぅ」
「よしよし」
俺は布団を真っ赤な顔で、子供のように泣く幹夫をあやしながら、明日のメシは何を作ろうかなぁと、ぼんやりと思考を飛ばしていた。
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