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11時間差レター
第16話:不良と苛立ち



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第16話:不良と苛立ち
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アイツからの最後の手紙を受け取ってから1週間が経った。
俺は今も最後の手紙を貰う以前と変わらず、あの塾を掃除している。

まずは机を移動させて、その後掃除機をかける。
掃除機をかけてもゴミの取れにくい講師控室のマットの上はコロコロでゴミを取る。
2階へと続く階段は、濡れた雑巾で拭く。
その後は便所や水回りを、これでもかという位みがく。
床の掃除が終わったら、机の上を酸性水でスプレーして台拭きで拭く。
下らねぇガキ共の落書きも容赦なく消す。

たとえそれが、誰かへ向けたメッセージでも。

あぁ。そういえば、もうすぐ便所の洗剤が無くなりそうだ。
掃除機の紙パックの在庫も少ない。
購入備品として報告しなければならない。

そんな平凡で、なんの変哲も、変化もない毎日。
朝は掃除をして、昼間は家でゴロゴロする。
んで、夜は友達と無駄に遊び回っている。

何の変化もない。
いつも通りの生活だ。

あぁ、変化があったとすれば気温の……いや、季節の変化くらいだ。
日中はそうでもないが、早朝の気温は刺すように冷たくなり、掃除中冷たいバケツの水に手を入れる事が、日に日に辛くなっていった。

朝、外を歩くのにマフラーをした奴らが増えた。
そういえば、テレビで来週からは、寒波が日本列島に流れこんできて、かなり冷えると言っていた。

まぁ。そんな風に、世間では徐々に秋から冬へと、季節の色を変化させていった。
変化と言えば、その程度の事だ。

よって、あの手紙が無くなったからといって俺の日常は表面的には一切変化しなかったと言っていい。
ただ俺は淡々と日常の雑務をこなして毎日を過ごす。

生活には何の変化もない











なんて嘘だ。

「くそくそくそ」

俺は変わり映えのしない自分の部屋で横になりながら、知らぬ間に悪態をついていた。
今の俺の生活は表面的には何の変化もないが、内面はあの最後の手紙を貰った日を境に大きく変化した。

イライラする。
ウゼェ。
ダリィ。
やる気が起きねぇ。

アイツからの手紙が無くなってから、俺は以前の俺に逆戻りした。
朝起きるのが辛い。
目を開けるのが億劫で仕方ない。
終いには、イライラし過ぎて、久しぶりに人を殴ってしまった。
高校を卒業して、仲間達との距離が若干遠くなって。

それから今まで喧嘩なんか殆どした事なかったのに。
あの夜は、久々に俺はガキの頃のように、自分の拳を全くセーブできなかった。

殴って殴って殴って、
気が済むまで暴力を振るえば、このイライラも収まるんじゃないかと思った。
だが、イライラは収まるどころか激しく募るばかりで、何の解決にもならなかった。

あぁ、イライラする。
ムカつくんだよ。
なぁ、俺は何でムカついてるんだろうな。
誰に対してイライラしてるんだろうな。

誰に……ってのはわかんねぇが、原因が何なのかはわかっている。

“お前”だよ。
……なぁ、何で急にバイト辞めちまったんだよ。
お前、頑張ってたんじゃねぇのかよ。
これからも頑張るんじゃなかったのかよ。
クビって何だよ。
全然わかんねぇよ。
何があったってんだよ。

一方的にあんな手紙貰って終わりになるようなもんなのかよ、俺との手紙は。
何だよ、書いてると事やってる事が全然合ってねぇじゃねぇか。

『あなたと手紙のやり取りが出来なくなるのが一番辛い』

なら…… 何で、辞めちまうんだよ。
俺とお前の繋がりは、ここしかねぇじゃねぇか。

頼むからさ、
連絡先くらい
教えろよ。

俺は、会えるものならずっと会いたかったんだよ、お前に。
手紙だけのやり取りじゃ満足できなくなってたんだ。

おい、お前は違うのか。
そう思ってたのは俺だけなのか?

なぁ、朝辛くても、毎朝バイト辞めずに掃除しに行く俺の気持ち、お前にわかるか?
教室に入って、もしかしたら手紙があるかもしんねぇって、あの席に一番最初に行っちまう俺の気持ち、お前にわかるか?
ないとわかってて期待する俺は、馬鹿なのか?

俺は、未だに、お前に手紙を書いてるんだ。
書いて結局いつも、ゴミ箱行きだ。

なぁ、頼むから。
応えろよ。



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こんにちは、
元気ですか。
俺は全然元気ではありません。
朝は早いし、寒いし、バケツの水は冷たいし、時給は低いし、幼なじみは面倒な奴だし。

あなたは居ないし。

何で急に居なくなったりするんですか。
あんな手紙で全てを唐突に終わらせるなんて、あなたはひどい人だ。
あなたは俺と手紙のやり取りができなくなるのが辛いと言った。
けど、俺はそれ以上に辛い。

何でですか。
何で急に居なくなったりするんですか。

辛い。
辛いんです。

俺は、あなたにずっと会いたかったのに。
あなたは突然居なくなった。
あなたはどこの誰ですか。
俺はあなたの事を知っているなんて言いましたが、本当は何も知りません。

住んでいる場所も、顔も、声も、 年齢も。
あなたの名前すら、俺は知らない。
俺は何も知らないんです。

知らない事が、こんなにも辛い事だなんて、俺は初めて知りました。

お願いします。
教えて下さい。
応えて下さい。

あなたはどこの誰ですか。
俺は、あなたに会いたいんです。
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書きなぐる。
書きなぐる。

毎日毎日同じ気持ちを。
日々、違う言葉で。
真っ白な紙いっぱいに埋められる。
そして。
行き場のない手紙は、今日も静かにゴミ箱へと捨てられる。



しかし、その日は違った。
あの手紙は、ゴミ箱の中で朽ちる前に、ある人間によって拾い上げられ。

そこから話は大きく動く事になる。

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