[携帯モード] [URL送信]

短編集
同級生になった話

以前ブログの小話として掲載していた作品です。
加筆修正なしで、そのまま載せています。

舞台は個別指導の塾(また)
年下ハイスペック×年上普通

終始受け目線

--------------



苅田 京都(かんだ みやこ)
20歳
春日大学 人文学部 英語学科 1年生


現在、俺は2度目の1年生を経験する事を余儀なくされている。
俺は努力に努力を重ねやっとの事で合格した大学で早々に留年するというアホの所業を行ってしまった。
意外に順風満帆だった大学1年目。


そして、絶望的な2度目の1年をスタートさせた現在の俺。
そんな俺の1年間について、少しばかりダイジェストで紹介させて頂こうと思う。



【同級生になった話】



1年前の話である。
俺がやっとの思いで憧れの春日大学に入学したのは。



「よっしゃぁぁぁ!!」



人文学部は定員がもともと少ない事から、その倍率はかなり高い。
その中でも春日大学の英語学科といえば、地元でも有名でその倍率は他の学科の比ではない。

そんな英語学科に俺はやっとの事で合格した。






11か月前の話である。


俺がアルバイトとして地元から少し離れた個別指導の塾でアルバイトを始めたのは。

「はじめまして。今日からキミの英語を担当する事になった苅田です。よろしく」


俺は大学は実家通いであった為、地元ではなく大学から少し離れた中心街での塾のアルバイトを希望した。
なぜなら、地元とは違い都会だと塾講師の時給も跳ね上がるからだ。

もちろん、その分生徒が狙う大学のレベルもそれ相応のものになるのだが。




10か月前の話である。
俺のアルバイト先に、スーパー高校生が入塾してきたのは。


「苅田先生!ここ、ここの英文、どう訳したらいいですか?」


スーパー高校生こと、菅原 道真(すがわら みちざね)は本当にスーパーだった。
まず、頭がめちゃくちゃ良かった。
大宰府で学問の神様として祭られている人物と同じ名前であるが、一切名前負けしていない。

むしろ勝っているかもしれない。


(これは生徒可愛さの欲目が少しあるかもしれない)

それに加えて、道真は激しくイケメンだった。
実際俺が出会った男でここまでかっこいいと思えた人物は一人も居ない。

(これは生徒可愛さの欲目ではなく客観的に見てもそうだと言える)

そして、ノリもいいし、空気も読める、しかし年上と接しているという礼儀も忘れない。
かなり人間のデキた奴でもあった。

今年、受験生である道真は、つまりは俺より一つだけ年下という事になるのだが、話していると俺はいつの間にか同級生と話しているようない気分で居る事が多かった。
そして、年が近いせいか道真も塾の中では一番俺に懐いていた。



5か月前の話である。
受験直前の道真と町でバッタリと出くわして、道真に押し切られる形で連絡先を交換させられたのは。


「先生に受験の事でいろいろ相談したい事があるんだ」


そう、どこか真剣な面持ちで言われてしまえば、流されやすい俺はあっという間に連絡先を道真に教えていた。
本当はいけない事なのだが、道真とは何かと友達のようなノリで話す事が多かった為、かなり情に流された形で連絡先を教えてしまった。

それからだ。

道真から毎日、電話やメールが来るようになったのは。




3か月前の事である。
毎日連絡し合っているわりに、俺は道真の志望校を知らなかった。
だから、いつものように道真から電話がかかってきた時に聞いてみた。


「なぁ、道真。お前の志望校ってどこなんだ?」


その問いに、道真はいつも曖昧な笑顔と言葉で誤魔化しハッキリとは教えてくれなかった。
センターが終わって2次対策に必要な情報とか集めようと思っても、本人が教えてくれないのであればそれもできない。


俺がどうしたものかと悩み始めた時。


まだこの時俺は自分の取り返しのつかないアホな所業に一切気付いていなかった。




2か月前の事である。
俺は大学の学生課で悲鳴を上げた。



「うぎゃああああああ!!!」


選択必修科目を一つ、履修し忘れていた。
俺の成績表を見た友達が気付いたのだが、その事実はもう悲しくも恐ろしい現実だった。
今更嘆いてももう遅い。

一度も授業を受けていない科目に対する救済措置などどう考えてもないのだ。

人数の少ない人文学部では留年者など目立って仕方がない。
その日から約1カ月、俺は余りのショックで寝込みアルバイトも休んだ。
悪いが、道真からの連絡にも一切返信できなかった。


さっそく留年した俺の心の傷は相当なものだったらしく、親から本気で精神科に連れていかれそうになった程だった。



1か月前の事である。
俺がやっとの事で日常生活に復帰したのは。
もともと大学は春休みだったので、正確に言うと俺が復帰したのはアルバイトのみだったが。



「あれ、…………道真は?」


アルバイト先に顔を出したが、そこに道真の姿はなかった。
前期試験で余裕の合格を果たしていれば、この時期塾に居ないのは当たり前だが、まずもって塾の生徒名簿の中に名前がなかった。


なんでも、俺が塾に来なくなると同時に道真は塾を辞めてしまったのだという。
他の塾講師に聞いたところ道真は塾に来るたびに「苅田先生は来てますか?」と聞きまくっていたらしい。


塾から消えた奴の名前に俺はなんとも言えない罪悪感に苛まれ、弱っていた俺の心は再度落ち込んだ。

そして、俺はそのまま塾のアルバイトも辞めた。

俺から道真に連絡すれば良かったのだろうが、その時の俺の気持の落ち込みではそんな事出来る筈もなかった。
とりあえず、俺のメンタルはボロボロだった。





そして現在である。


俺と道真が思いもよらぬ再会をしたのは。



「苅田先生!苅田先生!苅田先生!」


そう言って俺に抱きついて泣きながら頬ずりをしてくる道真に、俺は弱っていたメンタルが更に弱体化していくのを感じた。
スーパー高校生だった道真は、スーパー大学生になっていた。


高校生の頃より断然垢ぬけた道真に、敵は居なかった。

ただ、そのスーパー目立つ道真に「先生」と呼ばれながら頬ずりされる俺は、授業初日から周りの新入生に「留年者」である事がバレてしまった。


もともと人数の少ない学部である。


そう言う情報はすぐに伝わる。





そしてガッツリ浮く。
去年と同じカリキュラムを1つ年下と共に受ける俺。


弱体化したメンタルでは、その状況に日々耐え抜いていけるのか甚だ疑問だった。
しかも、いくら「先生はやめろ」と道真に言っても、1年間の癖があるせいか何がどうあっても俺を「苅田先生」と呼んだ。


しかも、道真は学部主席であった。
そんな道真が留年した俺を「先生」と呼ぶ。
なんとも滑稽で仕方がない。

周りも「え、なんで先生?」みたいな顔をする。
教授だってそうだ。


ああ、もう酷い有様だ。

まぁ、これが俺の1年間のダイジェストだ。


「苅田先生!一緒にごはん行こう!」
「…………はぁ」


おわり

[次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!