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短編集
2027年(その1)
美形従者×平凡主(息子たち)

BLが始まるかもしれない主従関係の未来。
受け視点











【従者ミーツ主】
2027年








恥知らずの一族。
成り上がりの一族。
正当な一族の血を汚す大バカ者の一族。
道を誤りし非道の一族。

そう、俺達家族を指さして人々は言う。
勝手な事を勝手に言う。

そんな奴らの事など、気にせず俺は言ってやる。
言い放ってやる。



「バカって言う方がバカなんだよ!このバァカ!」



俺は皆の注目するステージの壇上に向かって、そう叫んだ。
叫んだ相手は俺の言葉に怒りで拳を震わせると、お綺麗な顔を盛大に歪め壇上にその拳を叩きつけた。

ステージに響き渡る殴打音。
それは、今日から始まる俺達の新たな舞台でのゴングのようだと俺は思った。

俺とアイツに注目する観衆共。
今日は青葉台中等部の入学式である事など、教師を含め俺の周りに居る新入生在校生だって忘れかけたような呆けた顔をしている。

アイツとの距離。
およそ20メートルと言ったところか。
ステージの高さ1,5メートル程。

届かない距離ではない。
必ずや命中させてみせる。

俺は右手を制服のポケットに突っ込むと、ポケットに入っているものをそっと握りしめた。
これが俺の、12歳というガキの闘い方だ。

「黙れ!この成り上がりの貧乏人が!父親に似て育ちが悪いにも程がある!」


そうアイツが叫んだと同時に俺は右手をポケットから取り出し、そのまま大きく振りかぶった。
俺の手にあるのは生卵。

「黙れ!父さんを馬鹿にすると許さないぞ!」

俺は振りかぶった腕をそのまま勢いに任せて前方へと振りかざした。
そっと握られていた生卵が重力に従い俺の手から離れて行く。
そして、そのまま空気抵抗などものともせず突き進む。

俺は奴に向かって飛んでいく生卵を見ながら俺は叫んだ。


「いけぇぇぇぇぇぇ!!」





-----------------
俺、安河内 正弘(やすこうち まさひろ)の家族にはいろいろと他者には言えぬが、まぁ、誰もが知っている薄暗い過去がある。

安河内家。
そう聞いて誰もが一番に思い浮かべる安河内と、俺の名となっている安河内は、その根本が大きく異なる。

まずは前者。
誰もが知る、有能な執事の一族である安河内家。
その一族は七障子という旧家に仕えてきた。
その歴史、実に400年以上。
そんな長い歴史と、七障子家に仕えているという名誉を誇ってきた安河内一族だったが、今やそれは見る影もない。
安河内一族は現在、没落の一途を辿っているのだ。

どうして、そんな有能な執事の一族である安河内家が没落しているのか。
それは、俺の家族であるもう一つの“安河内一族”の発生に由来している。

もう一つの安河内一族。
これこそまさに俺の父が一代で興隆させた新しい安河内の血筋。
古い馬鹿な金持ちの奴らからは“成り上がり”と馬鹿にされている俺の父だが、俺は父を心から尊敬しているし、父は何も後ろ指を指されるような事はしていない。

父の名は安河内 正之(やすこうち まさゆき)。
元は今や没落一族と成り果てた安河内家の嫡男であった。
だが、父は七障子一族に従属する事は是としなかった。
父は七障子のアホに従属するくらいならばと家を盛大に飛び出したのだ。
しかも、当時18歳(まだ高校3年の時)の父は、まだ使用人であったにも関わらず、実家を出る時にはもう既に信頼に足る一人の執事を連れていた。
なんという人望だろうか。

それが、今も父の傍で有能な執事として働いている福地 日向(ふくち ひなた)さんだ。
俺はいつも父が実家を華麗に飛び出した話を、父の腹心の秘書である日向さんに聞くたびに、全身の武者震いを止める事ができない。
父は自分の昔の話を余り俺にはしてくれない。
きっとそれは能ある鷹は爪を隠す原理と同じであると俺は見ている。
本当は父の口らかも、父の若い頃の武勇伝をたくさん聞きたい。

けれど、父が話してくれない代わりに日向さんはいつも俺に、いや、俺達に父の昔の話をしてくれる。

父がいかに優秀で、勇気のある、優しい人であるかを。

俺と、そして、日向さんの息子である福地 日比谷(ふくち ひびや)に。
日比谷は俺の秘書であり、親友である。
まだ子供の俺に秘書など不要だと言う父の言葉を押し切り、日向さんは俺が生まれた頃から日比谷を秘書として傍に置いた。
まぁ、同い年である為秘書と言うより、兄弟や親友に近い存在だ。

日向さんの話す父の話はとても魅力的で、俺もいつか父のように立派な男になりたいと思っている。
そう言うと、いつも父は困ったような顔をする。

きっと父は今や没落一家と成り果てた、父の実家である安河内家の事を想い胸を痛めているのだろう。
確かに、名家と呼ばれていた過去の安河内一族が没落したのは俺の父という大きな財産を失ったせいであるのは間違いない。
それ故に、それまで七障子に仕えるという名誉を賜っていた安河内家は父の代で仕える任を解かれた。
つまりは、クビ、というか離縁されたようなものだ。
父は優しい人だからきっと実家の没落を己のせいだと思っているに違いない。

しかし、俺はそうは思わない。
父が家を飛び出したのは、父があのアホ一族に仕えるような器に収まるような人ではなかったからだ。
父は遅かれ早かれ自らで自らの地位を確立させていく人物であったのだと、俺は確信している。

それを証明するように、俺の父は今や歴史だけ無駄に長いアホの七障子一族に引けをとらぬ力を手に入れている。
何の後ろ盾もない未成年だった父が、今や日本屈指の大財閥を作り上げたのだ。

だから俺は父を尊敬している。
俺も父のようになりたいと思う。

俺は今日も父に近づく為、七障子のクソ一族に一矢報いてやる作戦を実行するのだ。

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