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短編集
レンタル的人生2





【レンタル的人生2】


「本当に、この度はご迷惑をお掛けしております」

「す、すみません」


そう、地面に頭を擦り付けん勢いで頭を下げ、謝罪の言葉を口にする二人の人間を前に、野伏間 源造は焦ったように、身体を屈ませた。

最初に謝罪を述べた方の男はガッシリとした体つきをしており、身長は目算190を超えるのではないかと思われるほど大きな男。

そして、その男の右側に立つ男……いや少年と言った方が適切だろう。
彼は隣の男と対象的で、小学生と言って何の問題も無いであろう幼い姿で、やはり源造に向かって深々と頭を下げていた。


「いえ!あの、何が何だかさっぱり私にはわかりませんが、頭を上げて下さい!あの、ぼく?君も頭を上げてください?」

「ぼ、ぼく……?」


源造はまだ自分の孫ほどの年齢の子供がスーツを着込み、社会人のような勢いで謝る姿を見るのに耐えきれず、無理矢理身体を上げさせた。
すると、相手は怪訝そうな表情で源造の顔を見上げて、拗ねたような表情で現像に目をやる。


「ちょっと爺さん、俺はこんなナリしてるけどさ、もう70代なんだよね?さすがにボクは無いっす。俺も、けっこう爺さんなんっすよ」

「へ?70代……キミが?」


源造は少年(いや、彼の言葉を信じるならば老人なのだろうが)の言葉に目を丸くしていると、隣に居た体の大きな男が少年の頭に勢いよく拳を振りおろした。


「ってぇぇぇぇ!!!」

「口の利き方に気をつけなさい。そんなナリして貴方を子供扱いしない下の人間は居ませんよ」

「……神様ぁぁぁ……」


一瞬泣きそうな表情を浮かべた少年に、源造は頭を撫でてやりたい衝動に駆られたが、それは少年が口にした「神様」という言葉で、一気に吹っ飛んだ。

そう言えば自分は突然、このビルの一角のような場所に居て、突然この二人の人物が現れたのだが、そう言えば先程までは病院で死にかけていた筈だ。

そんな自分が、どうしてこのような場所に居るのだろうか。
そして、こちらに来る前は息をするのさえ苦しかった自分の体は、今や一切の苦痛から断たれ、こんなにピンピンしている。

もしかすると、ここは……

源造はチラリと浮かんだ自分の考えに頭を捻らせた。


「あの……ここは」


天国ですか?


源造がそう口にする前に、源造は自分の言葉を飲みこんだ。
天国……にしては、此処はあまりにも只のビルにしか見えない。

もし違っていたらボケた質の悪いおじいさんの扱いを受けてしまうかもしれない。しかも、最悪、ボケた老人の徘徊と称され警察に連絡されてしまうかもしれない。


源造は先程まで自分が死にかけていたにも関わらず、本気でそんな事を心配していた。

そう、源造は85歳になって医者に「今夜が峠です」と言われるその瞬間まで、彼の頭はハッキリしていた為、特にボケたお爺さん扱いは、どうにも許せないものがあったのだ。

しかし、そんな年寄りの僅かばかりのプライドにかまけていられるほど、今のこの状況はわかりやすいものではない。

源造がどうしたものかと、もともと皺の多い顔に更に皺を増やして考えていると、大柄な男の方が源造に向かって優しく口を開いた。


「あの、今、貴方の置かれている状況、その他もろもろについて、この後別室にてご説明致します。とりあえず、今この場所を端的に一言で表しますと……多分、貴方の思っていらっしゃるモノで、間違いはないと思います」

「え、と。という事は……ここは……」


やはり天国か。
源造はその事実に一瞬大きく目を見開いた。


「はい。ここは、天界、日本支部、転生課のビルの一室です」

「……………」


……全然、違う。
自分が、思っていたものとは全然違う。

その為、一瞬源造はどう反応してよいか全くわからず固まってしまった。

そんな源造に、大柄の男は笑顔で言葉を続けた。


「天界、日本支部、転生課。……まぁ、とりあえず一言で言うと……死後の世界、ってやつですね」


そう大きな男に笑顔で言われ、源造が改めて見渡した部屋は……


やはりただの錆びれたビルの一室だった。


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スタスタスタスタ

すた、すた、すた、すた

やはりどう見ても普通のビルの中。

源造は大小身長差の激しい二人の後ろをのんびりと歩いてついていく。
体は入院していた、あの時よりも大分軽い。

しかし、だからと言って源造の足は前を歩く若者二人のように軽快には動いてくれなかった。

前を歩く大男も、それを分かってくれているのか、チラチラと源造の様子をうかがってはニコリと人のよさそうな笑みを浮かべて、ペースを遅らせる。
対して、隣を歩く小さい方の……実は79歳という彼は、一度も源造を振り返る事はなかった。

ただ、歩きながら、落ち込んでいるのかずっと下を向いたままだった。

そんな二人を後ろを、源造は黙って歩く。
その途中、誰とすれ違う事もなかったが、廊下の感じといい、隅っこの方に埃のたまった感じといい、お世辞にお奇麗と言えるビルではなかった。

しかし、それがまた、現実世界の少しだけ老朽化の進んだビルの中を思わせて、ここが“死後の世界”というのは何とも嘘臭さを感じた。
まぁ、源造自身、最初はここを「天国なのでは?」と思った事を不思議に思うくらい、普通のビルだ。


源造は自分の置かれた状況がイマイチ掴みきれないものの、やはりこの目の前を歩く二人について歩いて行くよりほか、選択肢がなかった。


「(私は……死んだんですよね)」

そう。
確かに、自分はあの時、あの病室で死んだ。

家族の顔だって、最期に目に焼き付けた。

だとすると、ここは本当に死後の世界であると、信じるしかないのだ。


源造はキョロキョロと周りの様子を伺いながら、そんな事を考えていると、今まで足を止めることなく歩いていた二人の動きが、ある部屋の前でピタリと止まった。

二人に合わせて、源造の足も共に止める。


「長い事歩かせてしまって申し訳ございません。こちらで、全ての事情をご説明致します」

「………ここは」


源造が体の大きな男に言われて、その部屋の扉を見ると、そこには酷く煤けて黄ばみがかったプレートに『社長室』と書かれていた。


「あまり綺麗ではありませんが、この、私の部屋で事情をお話しますね」

「はぁ。お若いのに、社長さんとは立派な事ですねぇ」

「いえ、それほど若くはありませんから。さ、どうぞ中へ」


源造の感嘆の声に、大きな男は苦笑を浮かべると、ギギと建てつけの悪い扉が軋む音と共に、中へと案内された。

その瞬間。


「おい!いい加減にしろ!?また警察かよ、マジ勘弁しろよ!?」


源造が中へ入った瞬間、若い、それも髪の毛の色を真っ赤に染め上げた高校生らしき男が部屋の中に備え付けられていたソファの上で、大声を上げていた。
しかも、その足はソファの前に置いてあった低いテーブルの上に置かれており、その態度は、最早この部屋の主人であると言わんばかりの大きさである。

無論、この部屋の主は源造の隣に立っているこの大きな男なのであるが。


「神様!この魂、どうにかしてください!さっきからずっとこの調子で……」


源造達3人が中へ入ると、若者の近くに居た、これまたスーツを着込んだ50代くらいの男性が、一気に大きな体の男へと詰め寄った。
どうやら、この男はこの部屋であの若者の面倒をずっと見ていたらしい。

そのせいか、50代の老いを少しだけ感じるその顔には疲労の色が見え、未だに何か文句を叫んでいる若者を、苦々しい表情で見つめていた。


「だいたい、この魂はまだ死んでいない魂でしょう!どうして此処に居るんですか!?」

「すまない。現在アレの体の心肺は停止状態にしてあるため、臨死として、こちらまで特別に連れて来たんだよ」

「でも、どうしてわざわざそんな事を……」

「理由は……まぁ、後からこの大善寺君の居る事務部署の所長にでも聞いてみてください。まぁ、その前に始末書が大量にそちらに行くと思うので、それに目を通してくれると全てが分かると思いますよ」

「……また、事務部所のミスですか……」

「……すみません……」


源造の前で、更にシュンと小さくなる少年に、源造はやはり少しだけ心が痛むのを感じた。
本当にこのくらいの容姿の子供を見ると、孫を思い出してならない。

まぁ、そう言って口を挟もうにも、源像には全く会話の意味がわからない為、そんな野暮もできそうにないのだが。


「それでは、おっしゃっていた通り、この若者の魂は神様にお引き継ぎ致します。私は、仕事が残っていますので、これで」

「忙しいところをすまないね」

「いえ、それでは失礼します」


50代位の男は、大きな男に恭しく礼をすると、チラリと面倒臭そうに小さいほうの男を見て部屋を出て行った。
その視線に、見た目は子供の79歳の彼は、疲れたようにため息をついた。


「おい!さっきから俺を無視してんじゃねぇぞ!?オヤジ共!」

「はいはい。死に損ないの魂は少し黙りなさい。さ、貴方も彼の隣にお座り下さい」

「あ、はい。わかりました」

「わかっているとは思いますが、大善寺君は、彼らの隣に立っていなさい」

「……はい、わかりました」


源造はショボンとした顔で、髪の真っ赤な男の隣に立つと、また小さな声で溜息をついた。
彼は、源造が此処に来た当初からこのような晴れぬ顔ばかりを浮かべている。

源造は彼の幼い容姿に張り付く憂いを帯びた表情に目をやりながら、真っ赤な髪の若者の隣へと座ろうとソファに近寄る。
するとそれに気付いた若者がギロリと酷い目つきで源造を睨んできた。

その眼光の鋭さに、源造が一瞬目をシパシパと瞬かせた。

何か言われるのだろうか。

源造は少しだけ彼の顔を見つめていると、学生服の男はチッと舌打ちをし、真ん中にデンと座っていたソファを奥に詰めて座った。

どうやら、何も文句はないらしい。
多分、この若者のこの目つきは標準装備がこれなのだろう。


そんな彼に、源造は「すみません」と小さく会釈すると、見た目に反してフワリと柔らかい素材でできているソファに腰を下ろした。


そして源造が腰をおろしたのを確認すると、大きな男は源造の向かい側にある、同じ素材で作られた一人掛けようのソファに腰を下ろした。
体の大きな彼が腰かけると、そのソファが小さく見えるから不思議だ。


「さて、やっと落ち着きましたね」

「おい、おっさん!此処はどこだよ!?警察か?俺は別に何もしてねぇぜ!?」

「はぁ、いい加減少しは黙りなさい。死に損ないが」

「あぁ!?おっさん!さっきから気になってたんだが、その死に損ないって何だよ!?俺の事か!?」

「貴方の事ですが、何か?」

「………テメェ、ぶっ殺すぞ!?」


隣の真っ赤な髪の男が、向かい側の大きな男を威嚇するようにガン!と前にある机を足で蹴る。
しかし、そんな彼の威嚇など男は全く気にした風もなく、冷静な態度のまま流れるように口を開いた。


「2月末日。午後6時30分。下界名、上津カズマ。年齢17歳。キミはこの日、一人で敵対するチームの溜まり場に乗り込んだ。理由は、自身のチームを仲間によって追われた事に対する、イライラから。むしゃくしゃすると叫んだ貴方は、自分のチームの溜まり場から、走って敵チームの溜まり場へ行き、そこの頭である中島茂を一発でもいいから殴ってやろうと乱闘を起こす。最初は奇襲である事と、一人であるという身軽さから、イイ線まで行くが、結果相手チーム総出によるリンチに合い、そのまま昏倒のち、駆けつけた警察官によって救急車が呼ばれる。そして、現在下界時間7時18分、キミの体は病室にて心肺停止の臨死状態へと入る」


ツラツラと述べられた信じがたい内容の言葉に、机を足で蹴り上げていた若者は、唖然とた表情で前の前に居る大きな体の男を見つめていた。
源造も、何が何だかわからないが、物凄い内容であった事は理解できたため、ただ黙って隣に座る若者と目の前に座る大きな男を見やった。


「テ、テメェ。何で、そんな事、知ってやがんだよ……」

「そりゃあ、神様ですから。地上にある魂の全ては私の管轄下です」

「は、神様……?お前、マジかよ?頭大丈夫か?」

「はぁ、やはり神様は凄いですねぇ」

「おい、爺さん!あんますぐに何でも信じてんじゃねぇよ!?コイツ!どう見たってただのおっさんじゃねぇか!?」


大男の「神様ですが何か?」発言に、若い男……神様が言うならカズマと言う男と、源像は全く違ったリアクションをとった。
感心するような源造の態度に、隣に座るカズマは呆れたような目で源造を見下ろした。

その目には最初に源造に向けたような凶悪さは、微塵も込められていなかった。


この時、既に源造は、信じがたい事ではあるが、このビルは源造の言う天国であり、この目の前の人物は神様であると信じていた。
何せ、源造は自分の死を自覚して死んだ故、疑う余地などどこにもなかったのだ。

そんな二人を前に、神様は少しだけ引き締まった表情を作ると、未だに疑いの籠る目で自分を見つめるカズマに落ち着いた口調で、述べ続けた。


「信じるも、信じないも貴方の勝手です。しかし、これからお話する事は一応、義務として聞いて、理解してもらわねばなりません」

「何だよ、話って」


神様は疲れたような表情で一度目の上を手で押さえると、今度はカズマの隣に居た小さな体つきの79歳の彼へ、手招きをした。
その動作に、カズマの隣でしょぼくれていた少年姿の彼が、はじかれたように神様の隣へ走る。


「まず、彼はこの天界で、死んだ人間の魂を転生させる職に着く、大善寺幸助君です」

「……大善寺 幸助です」


そう言って小さく頭を下げた幸助に、源像は微笑ましくなって「どうぞよろしくお願いします」とゆったり頭を下げた。
そんな源造に幸助は苦々しい表情を浮かべる。


「そして、私は、この天界、日本支部で全ての決定権を有する……貴方がたで言うところの神様のような仕事をしています、健老 神です。ジンという漢字がカミと言う字を書くので、普段は“神様”と呼ばれる事が多いですね」

「………マジで言ってんの、おっさん」


そう言って未だに呆れたような表情で神様を見つめるカズマに、神様は気にすることなく説明を続けた。


「今回、この転生課で、一つ大きなミスが起こりました。今回、貴方がたをここにわざわざ呼んだのも、この私の隣に居る彼の犯したミスが原因です」

「………スミマセン」


“ミス”と言う神様の言葉に幸助の小さな体は更に小さく縮められる。
もう、本当にここから逃げ出してしまいたい。
幸助はここに来るまでに考えていた強い思いを、この場にて更に強く募らせた。

まぁ。そんな事、出来るわけないのだが。


「まず、簡単にご説明致しますと、彼の仕事の“転生”という儀式は、下界でその寿命を全うして死んだ魂を、下界で生まれた新しい新生児の体に送り、人間として新しい生を確立させる事です。その為、下界にある魂の殆ど……98%は一度死んだ人間の魂が入った人間になります」

「ほぉ。命はやはり巡るのですねぇ」

「はい、新しい魂を作り出す事も……まぁ稀にありますが、それは特別な場合のみです。なので、皆さん、前世の記憶のみを消し去って、新しい生を下界で送る事になりますね。まぁ、転生する先は人間とは限らないんですがね」


神様の口から、つらつらと語られる命の流れに、源造は子供のように目を輝かせると、「そうなんですか、そうなんですか」と頭を頷かせた。

命は巡る。

その考えは、源造が生きていた時、常に彼が考えていた生の営みの形でもあり、よく子供や孫たちにも話してきかせていた。


死んでも、その魂はまた巡って新しい生となる。
だから、おじいちゃんが死んでも、またお前達に会えるかもしれないね。


そう、まだ意識がはっきりした時に自分の病室を訪ねてきた孫達に、源造は、にこやかにそう話を聞かせていた。

もしかすると、自分の言っていた通りになるのかもしれない。
確かに記憶をなくしても、人間でないとしても、自分の魂はまたあの愛しい家族の近くで生きていけるのかもしれない。

そう考えると、神様の言う新しい生を送ると言う事が、凄く楽しみになってきた。

先程の神様の話からすると、殆どの魂がまた下界での生の流れに乗る事が出来ると言っていたので、自分だってまた何かに生まれ変われるのかもしれないのだ。
源造はにこやかな表情のまま、もう一度深く頷いた。

しかし、その隣ではイマイチ話を信じ切れていないカズマが胡散臭そうな表情で神様を見ていた。


「で、その生まれ変わらせるのか仕事っつーそのガキはどんなミスをしたんだ?そして、それが俺に何の関係があるってんだよ」

「……ガキって」

カズマからのガキ扱いに幸助は少しだけ眉を潜めたが、それ以上彼がカズマに何か言う事はなかった。
さすがに、今の状況でその部分を深く突っ込む余裕はない。


「この大善寺君は、その転生処理の途中、本来ならば畜生道……つまり動物の魂として新しい命を遂げる筈だった少年の魂を、間違って新しい、人間の子供の体へ送り込んでしまったんですよ」

「……あの、その。名前が……前世の魂と、新しい魂が一緒で……へぇって思って、勢いで転生させてしまったら……あの、書類の段を見間違えてしまっていたみたいで……で……あの、そう言うミスです」

「あぁ、いかに貴方が常日頃の業務の中で書類確認を乱雑に行っていたのかが、見てとれるミスですね」


「すみませんんん!!!」


厳しい神様からの指摘に、幸助は頭を抱えながら謝罪すると、何度も何度も源造とカズマに向かって頭を下げた。
そんな幸助に源造はやはりキュウと胸が締め付けられるような感覚に陥る。
しかし、隣では未だにカズマは自分が謝られているのか理由が分からない為、憮然とした表情で幸助の謝罪を見ていた。


「そんな……。ミスは誰にでもありますから。幸助君。頭を上げて下さい」

「つーかさ!そいつの、そのクソガキのやったミスが、何で俺らに関係あんだよ!?本題はそこだろうが!」

「はい、そこが問題です。その間違った魂を送ってしまった新しい子供の体。実際には……野伏間 源造さん、あなたが新たに転生する筈だった新生児の体だったんですよ。これが」

「…………はい?」


突然、問題の渦中に名前の挙がった源造は目を大きく見開くと、パチリと神様の顔を見つめた。

源造の入る筈だった子供の体に、間違って別の人間の魂が入ってしまった。


……と、言う事は。


「そのミスの瞬間、源造さんの魂の生まれ変わる先が、無くなってしまったんです」


そう、神様にハッキリと言われ、源造はあぁ、と薄く目を伏せた。


つい先程、魂の生まれ変わりについて話を聞いて喜んだ矢先にこんな事になってしまうなんて。
しかも、本来なら自分は運良くまた人間として生を受ける事になっていたらしい。

運が良ければ、また自分の家族に人間として会えたかもしれない。


そう考えると、源造は少しだけ、本当に少しだけ小さな憤りを感じてしまった。

しかし、今さら起こってしまったミスを悔やんでも仕方が無い。


源像は伏せていた目を、もう一度ゆっくり神様の方へ向けると、小さく微笑んだ。
それは、神様に向けたものではなく、その隣で今にも泣きそうな表情を浮かべている幸助に向けたものだった。

気にしなくてもいい。
ミスは誰にでもあるのだから。

そんな想いを込めた笑顔だった。


「起こってしまった事は、仕方ありませんよ。それならば、私がその少年の魂の入る筈だった動物の子供の体へ入ればいいんじゃないでしょうか?」


そう源造が笑顔で言葉を発した瞬間、今まで謝罪で表情を固くして居た幸助の表情が泣きそうなものへと変化する。
まさか、そんな事を言われるなんて思ってもみなかったのだ。

そんな幸助の表情とは裏腹に、源造の表情は明るかった。


「それでいいじゃないですか、ねぇ。神様」


そう。
別に巡る魂の先は人間でなくても良いのだ。
人間の体でなくとも、生は受ける事ができる。

また、あの地を駆けまわる事ができるのだ。


しかし、


「いいえ。源造さん。此方側のミスで、人間に転生予定だった魂を畜生道に落とすなんて事、私共はできません。それこそ、そんな事をすれば、私が畜生道に落ちるべき、と言う事になります」


源造の提案は、何やら決意を帯びた神様の言葉によってバッサリ切り捨てられてしまった。
どうも、この神様は見た目同様、真面目で実直なようだ。
別に気にせずとも良いのに。


「でも、私の入るべき赤子には既に新しい魂があるのでしょう?それならば、やはり、私の入るべき魂の器はないのではないでしょうか?」

「はい。全ての魂には次の予定つまり、どの赤子、どの生き物、と転生先か、と言うのがあらかじめ全て決められています。なので、今から別の赤子へ、と言うのはどうしても無理です。それに加え、最近、日本は少子化の問題もあって、人間の赤子が足りない状態が続いています。故に新しく転生先の赤子を作るのも困難」


そこで、です。

神様はその瞬間源造に向けていた目をチラリと隣に居たカズマへと向けた。


カズマは一向にこの話に自分との関わりが見えてこない事もあり、半ば話を聞き流していた。
そんなところへ、神様の話がカズマへ移ったのだ。

カズマは一瞬目を見開くと、すぐに最初のような睨みを利かせた表情で神様を睨みつけた。


「……んだよ」

「そこで、上津カズマ。貴方の現在の地上の体を、私の持つ全ての権力を行使し、あなたから没収します」

「………は?」








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あえなくここで書くのを諦めてハイジは【俺宣】に走りました。


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