短編集
レンタル的人生
【俺宣】完結記念。
起承転結でいくと起の部分で終わってるので注意。
【俺宣】の元ネタ。
チャラ男攻め+転生モノで何か書こうと思って書いた最初の話。
チャラ男×心優しきお爺さん(外見不良)
になる予定だったが、攻めが出てくる前に書くの飽きて【俺宣】でハイジ初のチャラ男×平凡に走る。
【俺宣】の元となった作品なので完結記念に出しておこうと思います。
(昔、更新履歴があった時代そちらに載せていた作品です。
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2月末日。
市立総合病院、304号室。
ある病院の一室で、1人の老人の命が消えようとしていた。
老人には既に意識はなかった。
ただ、呼吸をする度に苦し気な様子で大きく胸が上下するだけだった。
「お父さん!」
「義父さん……!」
「おじいちゃん!」
「父さん!」
「…………あなた」
老人には意識はなかった。
しかし、声は聞こえた。
そして感じる事もできた。
愛しい妻や、我が子や、孫の存在を。
すぐそばに、家族を感じる事ができた。
老人は幸せだった。
85年間生きてきた、自分の人生を思い返して、老人は確かに人生の終わりに幸せを感じていた。
人間、生死をその身に受けるその時は、皆1人ぼっちだと、人は言う。
しかし、老人はそうは思わなかった。
確かに死ぬのは己1人だけであるが、その時が訪れる今、この瞬間。
自分は1人ではない。
確かにそう感じる事ができた。
老人は薄れ行く意識の中、最後に少しだけ目を開いた。
しかし瞼が鉛のように重く、それは本当にほんの僅かな視界に過ぎなかった。
だが、老人は見た。
自分の回りに集う家族を。
皆、一様に目に涙を浮かべ自分の最期を必死にその目に焼き付けようとする姿を。
あぁ、なんて幸せなんだろう。
老人の瞼が静かに閉じた。
2月末日。
午後6時36分。
野伏間 源造
(のぶすま げんぞう)
彼は85年の長きに渡る、己の人生に幕をおろした。
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同日。
裏路地の一角。
学生服に身を包んだ男は必死に拳を振りかぶった。
しかし、その拳は、あの大嫌いで大嫌いで仕方がない男に振るわれる前に、男は突然走った後頭部への鈍痛によって、その場に倒れ伏した。
どうやら、鉄バットかなにかで殴られたようだ。
その瞬間、倒れた男の回りには10人以上の男達によって囲まれ、そのまま激しい暴力の嵐に見舞われた。
痛い、痛い。
痛くて仕方がない。
しかし、男はドロリと後頭部から流れる自分の血にも、身体中にできたジクジク痛む痣にも、ましてや周りから振るわれる激しい暴力にも、全く眼中になかった。
ただ、男の視線の先にあるのはただ1人。
中島 茂
(なかしま しげる)
自分が嫌いで、嫌いで仕方のない男。
この世の中で、最も気にくわない存在。
奴をこの手でぶん殴ることが、今の男の中に渦巻く、純粋な想いだった。
男はここに訪れるまでに、全てを無くした。
本来ならば、このような大人数に男が1人で乗り込むなど、無茶を通り越して愚かな行為でしなかなかった。
しかし、男は1人で乗り込んだ。
否、1人で乗り込むしかなかったのだ。
男はもう1人ぼっちだった。
仲間はもう存在しない。
しかし、それは男を絶望させたりしなかった。
1人になった事など、仲間に見捨てられた事になど、男にとっては何でもない事なのだ。
とりあえず、ムシャクシャするこの気持ちを納めるため、大嫌いなこの男をぶん殴る。
ただ、それだけだった。
しかし、それも叶わない願いになろうとしていた。
男の無謀な行動の結末は、容赦ない暴力によって、その幕を強制的に閉じられようとしていた。
あぁ、痛ぇな、クソ。
男は自分を見下ろす大嫌いな男を睨み付けながら、自分の身体から力が抜けていくのを感じた。
遠くなるなる意識。
暗くなる視界。
「この………クソ、野郎が………」
2月末日。
午後6時36分。
上津 カズマ
(かみつ かずま)
彼は、その言葉を最後に、がむしゃらに保っていた意識を手放した。
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同日。
天界、日本支部、転生課。
誰も居ない、ある広いオフィスの中。
上から下まで、きっちりとしたスーツに身を包んだ少年は、つい先ほど、こちらに登って来た魂の選別を行おうと手元の資料に目を落とした。
年の頃はまだ12〜13歳くらいだろうか。
顔に幼さを残す、その少年のスーツ姿というのは、なんともちぐはぐで、すれ違い様に挨拶をした相手が居たならば、きっと一瞬どう対応すればよいか迷ってしまうところだろう。
しかし、実は彼はその幼い見た目に反して人間的な年齢で言えば79歳という高齢な年を迎えていた。
そんな彼は現在、この転生課の遅番班の1人として、途中休憩に出た仲間の背中を見送り、ただ1人、この転生課オフィスに残って業務をこなして居た。
「これは……転生っと。へぇ同じ名前の魂か……おもしれぇ」
彼は手元に広がった複数の書類を見ながら、そう呟くと、デスクの奥に乱雑に置かれた印鑑に手を伸ばした。
彼の仕事は、下界でその生涯をまっとうした魂の中から、その後もう一度下界で生涯を送る者を選別し、魂を指定の新生児に送り込むというものだった。
まぁ、魂の選別と言っても、それは別に彼が選別する訳ではなく、上が判断し、決定した結果が書類にリストアップされているため、それを見て作業を行うだけだ。
しかも、送り込む作業も別に、魂を持って下界に持っていくというファンタジックなものではなく、その魂の情報が示された書類に【転生】の印を押すという、単純かつ流れ作業のような業務である。
つまりは、完璧なデスクワーク、事務の仕事だ。
彼はそんな事務を現在の段階で既に3時間ぶっ通しで行っていた。
肩は凝るし、集中力も既に限界を迎えていた。
あと、10分で同僚が休憩から戻ってくる。
そうすれば、次は自分の休憩だ。
彼は目の前に広がった休憩時間を前に、ニヤリと口角をあげると、手に持っていた【転生】印を勢いよく書類へ打ち付けた。
この、彼の行動が全ての問題の始まりだった。
しかし、その事に彼は全く気付いていない。
転生印の押された書類は一瞬にして、デスクから消え失せ、彼は次の書類に目を向けた。
転生事務が終了した書類は、上へと送られ、同時に転生完了となる。
故に彼が転生印を押した瞬間、その魂は下界で産声を上げるのだ。
「んーっ!あと5分で休憩だー!」
彼は椅子に座ったまま伸びをすると、そのまま背もたれに身体を預けて、天井を見上げた。
その瞬間、オフィスの入口の扉が勢いよく開かれた。
彼は扉の開くその音に、同僚が休憩から帰ってきたのだと思い、入口に向かって笑顔を向けた。
やっと休憩だ。
そう思って作られた、彼の満面の笑みは入口に顔を向けた瞬間、ピシリとひきつる事になる。
「先ほどの転生処理をしたのは、貴方ですか?」
「へ?は!?あれ?神様!?」
彼は突然現れた自分達の上司に、伸びをしていた身体を固まらせ、ピシリと表情をひきつらせた。
健老 神
(けんろう じん)
通称、神様。
この、天界、日本支部、取締役社長。
世界各国に存在する“天界”
ここはその日本支部だ。
つまり、彼は此処、日本支部のトップ。
彼の決定で日本の全ての魂の行く末が決められる。
リアルに、神様の仕事をしている人物だった。
しかし、普段は全くこのような場所には顔を出さない神様が、一体今、どうしてこんな一般事務の部署へ。
彼は突然現れた大物に、ただただ表情をひきつらせると、若干焦りの表情を見せる神様をジッと見つめた。
「貴方、とうとうやってくれましたね」
「へ………何を?」
神様の言葉を一向に理解できない彼は、ただダラダラと流れ出る脂汗の不快感に、眉を寄せた。
理由はよくわからない。
状況も、うまく読み込めない。
しかし、
「大善寺 幸助、今から私の所へ来て貰います」
大善寺 幸助
(だいぜんじ こうすけ)
彼はその瞬間、ハッキリと理解した。
彼が楽しみにしていた本日の30分休憩は、永久に取れなくなってしまった事を。
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