短編集
ミッチェルの男泣き
ウッカリ浮気×人気ブロガー平凡
まごうことなきBL
浮気相手ミッチェル視点
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「……じゃあな」
そう言って俯きがちに部屋を出て行くひぃの後ろ姿を見て、俺は目の前が真っ暗になるのを感じた。
「ひぃ!」
「仁!」
俺達二人がどんなに叫んでも、ひぃは振り返るどころか立ち止まってすらくれない。
『ひぃ!』
『おぅ!ミッチェル!はよっ!』
俺が呼べば、ひぃはいつだって笑顔で振り返ってくれたのに。
なのに、
なのに、
『別れよう、善親。お前らとはこれでサヨナラだ』
どうしてだよ。
お前らって何だよ……何なんだよ。
ひぃ……もうお前は俺に笑い掛けてくれないのか。
一緒に居てくれないのか。
ガキの頃からずっと一緒だった。
家も近くて保育園も一緒。
自然と一緒に居るのが当たり前になって、俺は誰と居るよりひぃと居るのが落ち着いた。
男の癖に、女みたい顔立ちだと周りから冷やかされた時も、ひぃだけは『可愛いって長所じゃね?』って大した事じゃないみたいに笑いとばしてくれた。
だから俺は、嫌いだった自分の顔も好きになれた。
自信を持って前を向く事ができた。
他の奴から言われたらムカつくけど、ひぃに可愛いって言われるのは純粋に嬉しかったんだ。
ずっと一緒に居たいと思った。
好きだったんだ。
大好きで大好きでどうしようもなかった。
だけど、俺はその想いを伝える事は出来なかった。
男同士だし、幼なじみだし、
それに何より、ひぃの俺を見る目は、完全に友達に向けるソレだったから。
だから、俺は言わないと決めた。
ひぃの一番近くに居れるなら、親友でも恋人何でもいい。
それに、ひぃの目に俺が恋愛対象として映らなくとも、そこには確かに俺に対する信頼があったから。
だから、俺は親友と言うポジションに甘んじた。
ずっとひぃの隣に居る為に。
ひぃの隣にはずっと俺が居れるもんだと……そう、本気で思ってたのに。
無情に閉まるドアを見ながら俺は、隣で同じように、呆然とした表情で座り込む男の存在に沸々と怒りが込み上げてくるのがわかった。
………コイツのせいで……!
そう、コイツはずっと俺が大切に見守って来た筈のひぃをまんまと横から掠め取っていきやがった。
『ミッチェル!俺なんかホモだったっぽい!』
そう言って俺の部屋に駆け込んで来たひぃに俺は一瞬淡い期待を抱いたのを、今でも鮮明に覚えている。
忘れられるわけない……
だってその後俺は奈落の底に突き落とされたんだからな……!
『俺、甘木に告られた!』
甘木善親
(あまぎ よしちか)
この、俺同様顔だけは他人より秀でたモノを持つコイツは、俺がどんなに望んでも得る事が出来なかったポジションを、あっさり持っていきやがった。
畜生、畜生、畜生…!
俺はこの時程、親友というひぃに最も近い己のポジションを恨んだ事はなかった。
ひぃは普段から何かあるとすぐに俺に報告しにくるという(可愛すぎる)行動パターンを持つ人間であった為、その後、付き合う過程で起こった出来事を俺に事細かに報告してきた。
そう………事細かにな。
最初の方はまだ良かったさ!
『男同士ってどう付き合えばいいだ?』
みたいな可愛い悩みだったからな!
今思い出してもあの真剣に悩むひぃは可愛かった!
しかし徐々にその相談は過激さを増していった。
『男同士のエッチって、ケツの穴に突っ込むんだなー!俺マジ知らなかったぜ』
そう腰をさすりながら俺の部屋にやって来た、若干色気を漂わせたひぃに、俺は多大なるショックを受けたのを、まさに昨日の事のように覚えている。
そして、ショックを受けながら軽く己の息子が元気になるのを必死で抑え込んだ事も、今となっては微笑ましい思い出と言えるだろう。
仕方がない……可愛い顔だろうが何だろうが……俺だって男だ。
情事後の好きな人を前に何も感じるなっつー方が無理な話なんだよ………
だが、まぁ……元気になる俺の息子とは裏腹に、俺の気持ちは極寒の真冬の大地並に冷え切っていった。
………ヤったのかよ!?
マジかよ…!?
そう心の中で、何度ツッコンだかしれない。
それからというもの、ひぃの赤裸々報告は更に過激さを増した。
『俺、正常位も好きだけど、あれ!あれ!対面しながらやつヤツも好きだ!奥の奥まで届く感じがいい!』
ギャー!
やめろ!
やめてくれ、ひぃ!
他人とお前の情事の話なんか聞きたくない!
そして対面座位で乱れるひぃを想像して元気になるな俺の息子!
『不思議な事に最近俺、乳首でも感じるようになってきたんだぜ!』
そんなどや顔で報告しないでぇぇぇ!
ひぃ、そんなに素直に開発されないでお願いだから!!
そして乳首攻めで乱れるひぃを想像して元気に(以下略)
………とまぁ、他にもいろいろな 過激報告を受けた俺の心は、徐々に疲弊していった。
何度俺はそれらの報告をオカズに、夜一人寂しくヌいた事か……
俺の心も体も、もう限界がキていた。
だから俺は動いた。
もう、好きな人が他の男に突っ込まれている姿なんか見たくない(見ていないが)
二人を別れさせる。
そして弱ったひぃを俺がそっと慰め、今度こそ親友などに甘んじる事なく恋人として傍にいてやるのだ。
そう、思った俺は早速善親に近付いた。
コイツに抱かれる為に(非常に不本意だが)
抱かれたら……まぁ、それを強姦として生徒会に訴えて、コイツを退学にしてやる。
退学……良い響きだ。
うちの学校は閉鎖された男子校故、そう言う事態が非常に起こりやすい。
だから、そう言った性的犯罪行為に関してはどこよりも厳しく事に当たる事になっている。
まぁ、コイツもそこら辺は反論するだろうが、学校側は絶対に俺の言う事の方を信じるという自信が、俺にはあった。
何故なら、だ。
コイツはリアルに複数の男と平気で付き合う奴だからだ。
つーか、この学校に居てコイツの下半身の緩さを知らない奴は居ない。
顔が無駄に良いだけに、今のところ相手は全て了承を受けた相手なのだろうが。
しかも、コイツのおかしいところは浮気は常習犯のようにするくせに、体力がないからセックスの1回が短いと評判である事だ。
そんなに体力ねぇなら浮気なんかしないで一人に絞ればいいものを、コイツは絶対に様々な男に手を出す。
救いようのないアホだ。
それに対して俺は自分で言うのも何だが、男にしては勿体ない位の顔の可愛さを持っている。
下半身緩男と可愛い俺……強姦被害を出したら、学校側がどっちの意見を信用するかは火を見るより明らかだろう。
そう……思ったのに……!!
「ッテメェェ!!善親!!なんて事してくれてんだ!!ぶっ殺すぞテメェ!」
コイツのアホなうっかりのせいで!!
善親は、突然の俺の激怒に今までの呆けた表情を一変させてこちらに向き直ってきた。
「ごめん!」
「ごめんじゃねぇぇ!!お前死ねよ!?大体何でお前ひぃと付き合ってんのに普通に俺なんか抱いてんだよ!?死ねボケカス!」
「つい」
つい……ついじゃねぇぇぇ!
これだから浮気は病気とかって言われンだよ!
確かにコイツの浮気癖はもう病気の域だわ、マジ死ね!
こんな奴にひぃのバックが奪われたなんて思いたくねぇぇぇ!!
「畜生!お前のせいでお前にバックでアンアン喘いで、しかも精液まみれの見苦しい姿をひぃにさらす羽目になったらろうが!?しかも……しかも……ひぃからはお別れだとか……言われるし……」
やべぇ、思い出したら死ぬほど悲しくなってきた。
全部……全部コイツのせい
「でもさ、最初はお前から誘ってきたん「死ねぇぇぇぇ!!」
そうだよ!!元はと言えば俺がワリィんだよ!!
全部俺がワリィんだ!
でも、それをお前が言うな!!
俺は部屋にあったあらゆるモノを何から何まで全てひっつかんで善親に投げ散らかした。
泣きながら。
ワンワン泣きながら。
もう、今は泣くしかできない。
バカな俺は悲しみを怒りに変えなければ、今は一人で立っている事すらできない。
テレビを投げてコイツに当たって記憶喪失になろうが、死のうがどうしようが、どうでもいい。
とりあえず今は、今だけは泣かせてくれ。
怒らせてくれ。
これが終わったら俺は土下座してでも、またひぃの傍に居られるよう努力するから。
お願いだから、今は………
泣かせてくれ。
「うわぁぁぁぁん!!」
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