短編集
千利休の孤独日記
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3月23日
千利休の孤独日記
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正座って、 正直辛い。
世間じゃ茶の湯を大成したと名高い私だが、やっぱり正座だけは何十時間やっても慣れない。
痛い……、痛いんだ。
端から見て冷静にお茶をたててる私
内心、茶の事なんてアウトオブ眼中。
「わび茶大成」
もう、このフレーズ……私にとっては相当なプレッシャー。
回りから「先生先生」と持て囃され、様々な諸大名達にわび茶の心を伝えている私が。
今更「正座って辛いよね」とは言えない。
言えるわけないよう。
あぁ、見えるよ、見える。
「正座って正直辛いよね」と言った後の周りのぽかん顔が。
見える。
はぁ……、足がジンジンしてる時はまだいいんだよ。
神経がマヒしてないって事だからね。
正座してて何も感じなくなったら、
これもうアウト。
完璧アウト。
こうなったら暫く立てない。
じっとしているのが正解なんですよ。
それが、昔無理やり立とうとして無様に転んで周りにあった高価な道具や壁を破壊した、若かりし頃の私が茶の湯から学んだ最大の教訓だ。
足の感覚が無くなったら動かない。
これ鉄則。
ちなみに「わび茶」が無駄なものを排除し、質素な出で立ちという形態をとっているのも、この経験がものを言っているわけです。
不必要に高い物が周りにあったら、壊すかもしれませんね。
高価な茶器とか転んで割ったら洒落になりませんので。
100均レベルの茶碗で充分なんです。
そしたら、何故かそれが周りには珍しくてウケてしまいまして。
「質素マジパネェ」
「無駄の排除マジ雅だな、おい」
そんな評価がいつの間にか私の後ろについて回りました。
一過性のブームって何が流行るかわかりませんね、怖い。
結果、わび茶の大成者。
「千利休」
この名が日本中を席巻してしまいました。
えぇ……どうしたの昨今の日本は。
私にはいまいち理解できませんよ。
そして、正直な所私としてはあまり嬉しくない。
だって正座する機会が増えたのですから。
あぁ、痛い。痛すぎる。
こんな事なら質素ついでに足もくつろがせながら茶を立てる流派にすればよかった。
まぁ、今更何を言っても遅いので、諦めますが。
せめて、せめてね。
この悩みを打ち明けられる友達が一人でも居てくれれば。
弟子は腐る程いるんですけど、気付いたら友達は一人も居ませんでした。
こんな事なら若い頃茶以外にも目を向けてはっちゃけておくべきだった。
若気の至りと後で恥じる事になろうとも……私はいろいろ突っ走るべきだった。
中二病だってちゃんとかかっておくべき病気ですよ、今ならそう思います。
正座って正直きついね。
こんな些細な事を言える相手が一人でも居てくれれば、私だってもっと頑張れる筈なんだ。
はぁ………あぁぁ。
あ、やば。
足の感覚なくなってきたわ。
おわり
※一過性のブームかと思いきや、茶の湯は未だにある。
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