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短編集
本当は、彼は勇者だったんです(4)





その後、どうやらシンイチが居た世界は俺の居るこの世界とはまるきり違う事が分かった。
住んでる国も世界も、シンイチにはまるで馴染みのないものだったのだ。
と、同様にシンイチの世界も俺にはまったく馴染みのない、聞いたこともないものだった。

その事が分かった時、シンイチはまた泣き喚いた。

帰りたい帰りたいとそれはもう手の施しようのないほど。

その時も俺は濡れタオルを持ってシンイチの背中を撫でた。
シンイチがこの世界の人間ではないという事が分かって、俺はどうするのかシンイチに聞いた。
すると、また不安になったのかシンイチは泣きはじめるので、元の世界に戻るまでここに居たらいいよと、またタオルを顔にかぶせながら慰めた。
まぁ、手掛かりと言ってもこの森には俺しか居住地はない。
街へ下りるのは食材の収穫が終わる秋まで無かった為、シンイチにはそれまで辛抱してもらう事にした。

シンイチは泣き虫だが良い奴だった。
ヘラと笑う顔も、俺は好きだった。
綺麗な顔のシンイチが笑うと、なんだかとても得したような気持ちになったし、それに10歳で一人立ちしてからこれまでずっと一人だったので、家に誰かいるというのが新鮮で嬉しかったりもした。

けれど、シンイチはとにかく何も知らないし、した事がなかったようで、日常生活に置いては何の役にも立たなかった。
本当に、本当に、何の役にも立たなかった。

「アウトは10歳で親元を離れたなんて凄いね。まだ子供なのに、畑も料理も全部自分でやるなんて」

「俺だけじゃなくて、この世界では10歳になったら戸籍と土地を親とは別に与えられるから、普通だよ」

「ねぇ、寂しくないの?アウトのお父さんやお母さんはどこに居るの?」

「えっと、父さんと母さんはもう多分また別の人と結婚して子供をそれぞれ作ってるんじゃないかな。だから、また別の土地に居るのかもしれないし、どちらかは昔の家に居るかもしれない。わかんないや」

「ええー!なんでまた別の人と結婚して子供を作るの!?何回も結婚するの?なんで!?」

「なんでって言われても……だいたいみんな人生で2回は結婚して子供作るし。子供が一人立ちしたら、また別の人と結婚するのは当たり前だよ?」

「え?え?な?えー?」

俺の説明にシンイチはとても驚いており、ともかく理解できませんという顔だった。
どうしてかなんて、俺も考えた事などないから分からない。
そういうもの、だとしか言えない。

10歳で一人立ちしなければならない俺達と違い、どうやらシンイチの世界では成人は20歳かららしい。
どうりで、シンイチは妙に子供っぽいと思った。
一人立ちが10年遅い生活をしてきたら、同い年でもまだ赤ちゃんのようになってしまうのだろう。


しかし、それにしてもシンイチは何も出来なかった。

「ごめん、俺、お皿、洗った事ないから。すぐ、割っちゃう」

「お皿、洗った事ないって凄いね。誰がお皿を洗うの?」

「……わかんない。コックさんとか、お手伝いさんとか?」

「それは、凄い生活だね」


どうやらシンイチの家はお金持ちで、学校の寮に住んでいたらしいが何をするにも周りの大人がやってくれるらしい。
料理なんてしないし、洗濯もしない、掃除もしないし、畑もしない。
最初は体力もないし、何をやらせても上手くいなかいので、どうしたものかと思っていたが、そのうちシンイチも少しずつ出来るようになってきた。

「シンイチ、皿洗い上手になったね」

「そう?そうかな!」

「うん、割らなくなったし。汚れも残ってない」

「俺って皿洗いできるんだなぁ」

「その感想も凄いね」


そうこうしているうちに収穫時期になり、街へ下りる事になる頃には、シンイチも随分俺との生活にも慣れてきているようだった。
笑う事が増えたし、畑も楽しそうにしている。
けれど、街に下りて収穫したものを売ったついでにシンイチの事について図書館で調べたり、何気なく集会所で話を聞いてみたりしたが何の手掛かりも掴めなかった。

「ごめん、シンイチ」

「ううん。アウトのせいじゃ……っひく。っひぐ」

その日の夜、シンイチは泣き喚きはしなかったが静かにシクシク泣いていた。



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