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短編集
本当は、彼は勇者だったんです(3)




俺は今先程まで泣きに泣きまくっていた少年が、懸命にスープを呑むのをジッと観察した。
どうやらお腹が空いていたらしい。

泣いて泣いて仕方が無かった少年だったが、泣くのにもつかれたのか、やっと泣き声以外の意味のある言葉をポツポツ言い始めた。
どうやら少年の名前は「ノブスマ シンイチ」というらしい。
年はやはり俺と同じで12歳だった。信じられない。
シンイチはどうやら、学校から寮に向かう途中に知らないおじさん達に無理やりさらわれたらしい。
そしたらいつの間にか此処に居た、と言う事だ。
おかしい事に、この近くには学校はないし、まず俺以外にこの森の敷地に居住地を決められた人間自体がいない。
そんな事をポツポツ話していると、シンイチがお腹をグウグウ鳴らすものだから、とりあえず俺はスープを温めなおした。
そしたら、先程まで泣いていたくせににっこり笑い始めて俺はびっくりした。
シンイチが笑ったのが嬉しかったので、俺はパンも焼くことにした。

パンとスープを食べるシンイチはそれはもう笑顔だった。

「あ、ありがとう。凄くおいしかったよ……えと」

「悲しいのが治ったなら良かった」

「えっと、えと」

食後、シンイチは俺をチラチラ見ながら何か言いたそうにしていた。
目は先程まで泣いていたので、真っ赤なままだ。
俺はまた冷たいタオルが欲しいのかと思い、タオルを持って外へ出た。
すると、シンイチが慌てたように俺の背中にへばりついてきた。

「どこいくの!?置いていかないで!」

「えっと、タオルを濡らそうと思って」

俺がそう言って井戸を指さすと、シンイチは少しだけホッとしたような顔をしていた。

「目が赤いから、まだ冷やした方がいい」

「……ありがと」

ぽちゃん

またタオルを濡らす。
今度は先程より緩めに絞って、俺の背後でウズウズしているシンイチの目にくっつけてやった。

「っひ」

「冷やしておくといいよ」

「いや、えっと」

目を冷やしているのに、まだシンイチはモゴモゴしている。
どうやら濡れタオルが欲しいわけではなかったらしい。

「あの、」

「どうした?」

「名前、キミの名前を」

「あぁ」

そうか、シンイチは俺の名前が知りたかったのか。
そういえばそうだ。
俺はまだシンイチに名前を教えていなかった。

「俺はアウト」

「アウト?」

「そう、アウト」

シンイチの言葉にコクリと頷いてみせると、シンイチはヘラと笑った。
それにつられて、いつの間にか俺もへらと笑った。
こうして、シンイチは俺のもとにやってきたのだった。

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