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蛇行
4


一度、親の庇護から抜けだし良くも悪くも自由な蔦谷学園の生徒達と触れあう事で、楓は少しずつだが確かに影響を受けていた。


自分のしたい事をする。

思い切り無茶をやってみる。

そして、たまにはワガママな事だって……やってもいいと。


そう、楓はまだ学生なのだ。

子供なのだ。

やりたい事は今のうちにやっておきたい。


それは、今まで抑圧された日々を送ってきた楓の、初めて心のうちに宿った、母親への反抗心であった。


楓は自らの拳に力を込めると、真っ直ぐと母親の目を見つめた。

その目は、母親にとって今まで見る事のなかった楓の目だった。



「母さん。俺は、紀伊国屋に行って頑張っても、きっと何にもなれなかったと思う」

「…………」

「でも、蔦谷学園でなら、俺はきっと“何か”になれると」


そう楓が初めて自分の気持ちを母親に曝け出した時だった。

その瞬間、今まで静かだったリビングにパシンと乾いた音が響き渡った。

「っつ………」

「…………」

楓は立ち上がってこちらを見下ろす母親に目をやると、一瞬にして自分の置かれた状況を判断した。


頬の走る痛みは鮮明に楓の脳髄を刺激する。


赤くなった母親の手に、楓は今、生まれて初めて母親にぶたれた事を頬に走るヒリヒリとした痛みで理解した。






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