蛇行
帰省
久しぶりに帰省した我が家に、楓はジッと立ち尽くしていた。
ただひたすらに。
家の外観、リビングへと繋がる廊下、そして台所。
それらは全て楓がこの家を出て行った3カ月前と全く変化はなかった。
しかし、今の楓にとってはそれらは全て慣れ親しんだモノではなく、今となっては他人の家の中に立っているような感覚を楓へと与えた。
そんな我が家とは言い難い感情を己の胸の内に秘めている楓は、ただゆっくりと背後から近寄ってくる人間の気配を感じていた。
「楓、帰って来ていたのならあいさつくらいしたらどうなの」
いつものように、色のない声で自分の名前を呼ぶ女性の声に、楓は振り返りたくない衝動を必死で押し殺しながら静かに後ろを振り向いた。
「……母さん」
そこには、会社から抜けてきたばかりなのかスーツを着たまま冷たい目で楓を見つめる母親の姿があった。
久しぶりの息子に、おかえりなさい、と声をかける事すらしない……自分の母親が。
楓は胸の中に何か冷たい感情が流れ込んでくるのを感じると、それを振り払うかのようにゆっくりと母親に向かって頭を下げた。
「おじゃまします」
「………………」
楓のその言葉に母親は一瞬だけイラついたように眉を潜めると、頭を下げる楓を無視してリビングへ設けられているソファへと腰を下ろした。
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