蛇行
9
「できると思った……けど、不安になったんだ?よしき君」
楓が俯くよしきにそう問いかけると、よしきは微かに頷いた。
そう、最初はよしきも自信があったのだ。
成績だって上がってきたし、
一人でだってできると思った。
しかし、よしきは不安になった。
本当にこの勉強で大丈夫なのだろうか。
前に進めているだろうか。
一人が故に訪れる不安は、徐々によしきの焦りに火をつけ、無茶な勉強へと向かわせた。
すると、体への疲労は溜まり、勉強が頭に入りにくくなる。
集中力も欠け、そんな自分に更に焦りを覚えて無茶な勉強をする。
イライラする。
そんな悪循環がよしきを襲っていたのだろう。
不安で不安で堪らなくなって、よしきは楓へ電話したのだ。
早く、早く来て欲しい。
いつも隣に居て勉強を見て微笑んでくれる存在が、思いのほかよしきの中で大きくなっている事に、よしきは始めて自覚したのだ。
情けない。
だけどやっぱり一人は怖いんだ。
そう、よしきが顔をうずめる手に力を込めた瞬間、
楓は今まで、よしきの頭に乗せていた手をよしきの背中に回すと、ポンポンと背中を叩いた。
よしきは突然自分を包み込んできた暖かい温もりに、一瞬体をピクリとさせると、そろそろと顔を上げた。
「それでいいんだ。よしき君」
「っ」
耳の近くに楓の口があれせいか、暖かい息が少しだけよしきの耳をかすめる。
しかし、それは不快でもなんでもなく、酷くよしきを安心させた。
「いいんだ。不安なのは当たり前なんだ。受験勉強やってて自信満々な人なんて居ないよ」
「………」
「すればする程わからないモノが出てくるのが勉強なんだから。不安なのは当たり前。それでも勉強から逃げなかったよしき君は偉いよ。本当に偉い」
偉かったね
そう言ってよしきの背中を優しく叩く楓に、よしきはプツリと緊張の糸が切れた。
「……何でもっと早く来てくれなかったんだよ……」
「うん、ごめんね」
「電話、何回もしたんだぞ」
「……ごめんね」
「ケータイくらい、持てよ…」
「…そうだね。ごめんね」
「あんたは……俺の先生……なんだ…一緒に勉強しないといけないんだ」
「うん」
「側に…居てよ」
「うん」
楓は小さく嗚咽を漏らすよしきを、少しだけ力を込めて抱き寄せると、すすり泣く声が止むまで
背中をさすり続けた。
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