蛇行
7
「………ねぇ、アンタは何でそこまでするわけ?」
楓の予想外の言葉によしきは幾分落ち着きを取り戻すと、赤く充血した目で楓の方を見やった。
やはり、そこには笑顔でこちらを見る楓の姿がある。
「……ねぇ、よしき君。睡眠の時間を……勉強の出来ない無駄な時間だなんて思わないでね」
「………別に無駄なんて」
「思ってるでしょ?よしき君、努力家だから」
そう言って、再度頭を撫でてくる楓の手に、よしきは今度は黙ってそれを享受した。
行為自体は子供扱いをされているようで凄く腹が立つのに、今の楓の手を払う事は、何故だかよしきにはできなかった。
「でもね、やっぱり睡眠は大事。本当に……凄く」
「…………」
「勉強が量より質……なんて俺は言わない。だって質だけじゃ、やっぱり受験は勝ち残ってはいけないからね。だから寝る間も惜しんで勉強するっていう、よしき君の姿勢は凄く偉いと思うよ」
「………だったら…いいじゃん」
「でも、やっぱり勉強にも質は必要だ。寝る時は寝て、やる時はとことんやる。そのメリハリさえつければ、3日間殆ど寝ずに勉強した内容よりも、もっとずっと内容の濃い勉強ができる筈なんだ」
「……………」
「だから、よしき君……自分が合宿に参加しなかった事で不安かもしれない。けど、もっと自分の選択に自信を持って。徹夜なんかしなくても、今の君の自学スタイルなら充分、塾の合宿にだって引けをとらない勉強が出来る筈なんだから」
言いながら楓は、サラサラとしたよしきの髪の間を滑るように、よしきの頭を撫でてやった。
そんな楓の行為に、よしきは少しだけ、疲れたような溜め息を吐くと、微かに襲ってきた眠気に眉をひそめた。
「……不安、なんだよ」
「うん」
「合宿、参加しないって決めた時は……俺、自分で出来ると思ったんだ」
「……うん」
「けど……実際、合宿が始まってから……家で一人で勉強すると…なんか俺だけ凄く置いていかれてるような気がして。……そしたら、寝てる時間ももったいなく感じて……だから、俺ずっと、一人で勉強して……」
途中から、自分でも何が言いたいかわからなくなって来たのだろう。
よしきは手で顔を覆うと、そのまま肘を膝の上に乗せ「わけわかんなくなってきた」と、小さな声で呟いた。
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