蛇行
5
「ねぇ、よしき君。今日って塾の合宿じゃないの?」
早速部屋に入ろうとドアノブに手を掛けたよしきに楓は思い切って尋ねてみた。
その瞬間、よしきに掴まれていた楓の腕がギシリと鈍い音を立てた。
「っ!」
「……合宿?あんなもん不参加だよ不参加!」
「えぇぇ!?なんであだだだ!よしき君腕!腕痛いから!折れる!」
不参加と言うよしきの言葉に、楓が驚いて声を掛けると、楓の腕を掴むよしきの力が、一気に強まった。
楓はどちらかと言えばかなりの痩せ型に部類される為、よしきの腕への締め付けは直接骨へと響いてきて半端なく痛い。
しかし、そんな楓の声など聞こえていないように、よしきは手の力を全く緩めようとしなかった。
「あの翼と同じ事やったって、結局差は埋まらないんだよ!?やるなら徹底的にアイツと違う事やんないとね」
「……っそ、そうなんだ…あの、よしき君そろそろ手を……」
「つーわけで!俺の大事なお盆の3日!あんたに賭けてやるからさぁ、あんたも本気でやってね」
「……うん、わかった…だから手を……」
「返事は、はいって言いなよ。あんた俺に雇われてる身分なんだから」
「……はい!わかりました!わかりましたから!」
楓が勢いよく頷くと、よしきはフンと鼻をならし楓の腕から手を離した。
そして憮然とした態度のまま、よしきは涙目で腕をさする楓に向き直った。
「相変わらず貧弱だね、アンタ」
「……よしき君が力強すぎるんだよ」
そう、いつものように憎まれ口を叩いてくるよしきに、楓がジト目で睨み付けた。
その瞬間、楓はよしきの……目のおかしさに気付いた。
「(あれ?なんかよしき君の目……赤い?)」
今まで背中越しでわからなかったが、よしきの目は充血して真っ赤になっていた。
この充血した目、
この目には楓は中学時代、嫌と言う程お目にかかってきた。
そう、この目は。
「………よしき君、昨日……ちゃんと寝た?」
寝不足の目だ。
「……何でそんな事聞くのさ…」
楓の問いに一瞬顔をしかめたよしきに、楓は確信を強めると、小さくため息をついた。
「寝てないんだね?言いなさい」
楓が少しだけ強い口調で再度尋ねると、よしきは気まずそうに、
小さく頷いた。
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