蛇行
2
「かえちゃん、おかえり」
楓がモヤモヤとした気持ちで玉泉院の門をくぐると、そこには草むしりでもしていたのか、片手に鎌を持つ、祖母(彦星の)の姿があった。
「あ、お婆ちゃん。ただいま」
「外は暑かったでしょう。早く家にお入り」
自分の方が明らかに暑いだろうに「暑かったろう」と笑顔で出迎えてくれる祖母に楓は、気持ちのモヤモヤが晴れるのを感じると笑顔で、祖母の元へ駆け寄った。
「お婆ちゃんの方が暑いでしょう。草むしりなら俺がやるから、お婆ちゃんが家に入っててよ」
楓はこの祖母に多大な恩がある。
家賃も通常の値段より、ずっと安くして貰っているし、なんだかんだで食事も作ってくれる。
そんな事実から、今の楓の状態は玉泉院に“住んでいる”と言うより“居候させてもらっている”と言うニュアンスの方が強かった。
そう、だからこんな時こそ祖母の役に立つような事をしなければ罰が当たってしまう。
そして何より、楓自身が何か恩返しをしたかった。
「そうかい。でも草むしりは私が好きでしてる事だからね。かえちゃんは気にしなくていいんだよ」
「でも……」
「それより、さっきねぇ。ウチの電話にかえちゃんは居ますかって電話がかかってきてたよ」
「え?」
電話と聞いて、楓は瞬間的に背筋が凍るのを感じた。
まさか、また母親からだろうか。
でも、何故またあの人が……。
楓がグルグルと良くない方向に思考を向かわせていると、祖母の口からは思いもよらぬ名前が飛び出した。
「確か柳川さんって方からだったよ」
「へ?」
柳川……そう名字で聞くと聞き慣れないが、それは
「……よしお君家?」
そう、楓のクラスメート、よしおの家からの電話だった。
「何でも、かえちゃんに家庭教師の事でお話があるって言ってたねぇ」
「………家庭教師」
と、なると電話の相手はよしおではなく、その弟であるよしきからであろう。
「(……でも、また何で)」
確かよしきはお盆期間中は塾の特別合宿に参加すると言っていた筈だ。
そのよしきから何故電話など掛かってくるのだろう。
謎だ。
「かえちゃんは今居ませんって言ったら、帰って来たら連絡して下さいって言ってたよ」
「……はぁ、わかった。ちょっと今から連絡してみる」
「そうしてあげなさい。少し急いでいるみたいだったからね」
祖母の言葉に楓は小さく頷くと、そのまま玄関先にある電話のもとへと走った。
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