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蛇行
家庭教師と生徒編

楓は家から出ると、その足でそのまま家路を急いだ。

いや、家から出て来て家路とはおかしいが、とりあえず楓は現在玉泉院へと足を向けた。

まぁこのお盆期間中、玉泉院に帰っても誰が居るワケでもない。

家主である彦星のお婆さんは居るのだが、彦星と蛭池は只今絶賛実家へと帰省中である。

本当なら今頃、楓も彦星達の帰省に付き合って旅行に出掛ける筈であった。

それは勿論、彦星たっての希望で。


『かえで!お盆は一緒にふくおか行こー!』


そう言って笑顔で飛び付いてきた彦星に、楓は苦笑しながら、その甘美な誘惑に思わず首を縦に振った。

どうせ、夏休みと言ってもバイト以外に特にやる事はない。

お金には少し不安が残るが、夏休みくらい贅沢したって罰は当たらないだろう。

楓は初めて出掛ける友人との旅行に、柄にもなく胸を踊らせたのであった。


しかし


『楓、話したい事があるからちょっと家に帰って来なさい』

『…………』


しかし、その想いは今回の母親からの呼び出しで軽く粉砕された。


母親からの呼び出し。


どんな事を言われてもおかしくはない。


そう考えると、楓の状況は浮き足立って旅行になど行っている余裕は一切なくなった。

そんな状態で旅行に臨める筈もなく……

楓は泣く泣く彦星からの帰省への誘いを断る羽目になった。


……蛇足だが、そんな楓からのお断りの言葉に、彦星はギャーギャーとマジ泣きをしていた。

まぁ、更に蛇足だが、楓が行かないなら自分も行かないと駄々をこねた彦星は現在、蛭池から盛られた睡眠薬でグッスリ眠らされ、蛭池に担がれて帰路についている。

起きた時が最強に面倒であろう事が簡単に予想されたが、今回ばかりは蛭池も譲らなかった。

なんでも、彦星を連れて帰らない方が何倍も面倒なのだと言う。

楓は彦星を担いで帰省の路につく蛭池の背中を見送りながら、少しの間だけ母親からの呼び出しの事を忘れ苦笑したのだった。


しかし、いくら楓が忘れたくとも、変わらない事実があるもので。

案の定、今回の呼び出しは母親から楓への最終宣告となった。


「(まさか、学校まで辞めろって言われるとはなぁ……)」


あの体裁ばかり気にする母親が、息子に中退を求めるとは。
楓は改めて、自分の通う学校の世間体の悪さを再確認出来た気がした。

「……通ってみると、そうでもないのに」


授業中は皆寝ているが、基本的に授業は平和に行われいるし、テスト前などは皆、留年しないように真面目に取り組んでいる。

始動して間もないが、今では生徒会だってあるのだ。

しかも、何気に上手い事軌道に乗っているし。



「………なんか納得いかない……」

世間の評価と実際の学校の状態に余りにもギャップがあるような気がして、楓は悶々としながら玉泉院へと帰宅したのだった。


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