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番外編
バカ、泣く


「楓!!」

「………っ!?」

教室の中へ飛び込んだ彦星の目に映ったものは、


唇を噛みしめて、必死に声を堪えて涙を流す


楓の姿だった。


「何で……何で楓……泣いてるの?どこか痛いの?何か悲しい事でもあった?」

彦星は頭が真っ白になりながらも楓に駆け寄り、必死に声をかける。

しかし、楓は首を振るばかりで全く声を上げようとしない。

「オレ、何か楓を傷つけるような事した?したならあやまるから!ね?泣かないで?楓、ねぇ楓?何があった……」

そこまで言って、彦星は楓の手にしっかりと握りしめられた紙に気がついた。
力を入れ過ぎてくしゃくしゃになってしまったソレは、先程彦星が楓に渡したテスト問題であった。


そして、そこで彦星は小さく息をのんだ。


楓の手に握り締められているプリントも、脇にくしゃくしゃになっているプリントも……その全てに未だ全く解答がなされていないのだ。

否。
解答がなされていないわけではない。

どのプリントにも解答を導き出そうとする痕跡はしっかりと残っていた。


数学のプリントには沢山の計算式が。

国語の問題には問題文にいくつもの棒線が。

そして、

彦星の担当教科である英語には、何度も、何度も書いては消して、書いては消してと必死に答えを導き出そうとした跡が。

「……楓?」

彦星はしっかりと力を入れ過ぎて真っ白になった楓の手を、そっと包み込んだ。

「っ……っひ……う」


「楓……



分からなかったんだね?」




彦星が問うと、楓は今度こそ本格的に目をつむり、顔を俯かせた。

しかし、机の上にはポタリポタリと涙の粒が、絶え間なくこぼれ落ちている。

「いいんだよ………、こんなの、わからなくったっていいよ……」

「っう……ぁ、ぃやだ……い、やだ」

楓は俯きながら嫌だ嫌だと首を横に振ると、彦星は「どうしていやなの?」と、静かな声で尋ねた。

「だって…せ、っかくっ、ひこぼ、し先……生に教えてっひく、貰ったのに。っひ、ぅえ、これ、前ならった、なって思ったの、たくさん、あった……のに……っ。ぜんぜ、ん解け、ない。もう……いやだ。……こんなバカな……自分…いやだ」

楓はボロボロと涙を流しながら必死で言葉を紡いだ。

悔しくて悔しくてたまらない。

せっかく先生に教えてもらったのに。

これ、前やった事あるなって思ったのに。

何度も似たような問題を解いたのに。

なのに、

なのに、

「どうして…っ…おれは……こんなもんだいも、とけないんだろう。どうして、こんなにあたまが、わるいんだ、ろう……っ!」

悔しい。
悔しいよ、

彦星先生。





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