[通常モード] [URL送信]

Why not?
誘い
鹿瀬は 高階の部屋に来ていた。

交際を承諾した日は 弓道部の部会があったので 高階の誘いにのれなかった。

それに もし高階とそういうことになっても 明日は土曜なので 体調不良を理由に休める。

今度の大会では 選手に選ばれたので 本当は休まないほうが良いのだが 試合直前に休むよりはましだろう。


「中に入ってくれ」

鹿瀬は高階の部屋を見回す。

思ったよりも広い。
高階はここで 家族と住んでいるのだろうか?

「あの……ご家族は」

「あ、母親はアメリカ。ここへは 滅多に来ない。三ヶ月に一回くらい来るかな」

そうなんだ。納得すると 奨められたソファーに腰掛ける。

「コーヒーでいいか?」

「あ………お構いなく」

鹿瀬は コーヒーが飲めない。でも ここで飲めないと言っていいものか どうか悩んだ。

「緊張してるのか」

たしかに鹿瀬は緊張している。交際を承諾したとはいえ、あまりよく知らない男の部屋で二人きりだ。

鹿瀬は黙って頷く。

高階が鹿瀬の横に腰掛けてきた。

肩に置かれた手に鹿瀬の意識が集中する。

高階は 鹿瀬が身を強張らせたのを その手で感じた。

これだけの容姿だと 相当男慣れしてると踏んでいた高階にとっては 意外な反応だった。

それとも これも計算の内か。まあ、抱いてみれば化けの皮も剥がれることだろう。

高階は目の前の獲物を舌なめずりして 見ている。

高階の中では、つきあう=抱くだった。
ちんたらとオママゴトのような恋愛ごっこをする気はさらさらない。

それを拒否する相手ならつきあうのをやめるだけの話だ。




「きれいな髪だな」

高階の指が鹿瀬の漆黒で癖のない髪をもてあそぶ。
さらさらと 指を滑る鹿瀬の髪。

鹿瀬は 自分の髪をさわる指がくすぐったくて 身をすくめる。

「どうした?」

「くすぐったくて…」

感度は良さそうだ。

さて、どのように料理していくか

高階は 鹿瀬の横顔を見つめる。

切れ長の瞳を縁取る長い睫毛。
下を向くと頬に睫毛の影が落ちる。

すっきりと細い鼻。高からず低からず、形がいい。

肌も白人のようなピンク系の白さではないが、上質のバターのような、なめらかな肌をしている。

まずは キスから試してみるか……。

高階の目が 鹿瀬の薄めの唇にいく。


高階の指が 鹿瀬の下唇をなぞる。

「キス……したい」

高階を見る鹿瀬の瞳が揺れる。

「あ……」

高階は鹿瀬にこれからキスをするということを意識させたかった。

そして そのうえで鹿瀬の反応を確かめようとしていた。

一度は拒否して恥じらう振りでもするか、それとも……。



背筋を伸ばしたまま、ソファーに腰掛け じっと高階を見つめる鹿瀬。

ただ ひたすら高階を見つめている。

鹿瀬はキスしたい、と言われても どうしたらよいかわからず ただ固まっているだけだった。


「いい?」


高階が重ねて 問い掛ける。

もう一度、人差し指が鹿瀬の下唇の膨らみをなぞる

いいも悪いも そういうことも含まれるのだろう、付き合うということは。

そう思い 首を縦に動かす鹿瀬。

ゆっくり、ゆっくりと高階の右に傾けられた顔が近づいてくる。


「目を開けたまま キスするつもりなのか」

笑いを含む声で動きを止めた高階が言う。


「開けてたら ダメなの?」

こんなに近くで相手の顔を見れる機会なんて他にない。

「へぇ…」


思いもかけない鹿瀬の言葉にしばし戸惑う高階。しかし、これはこれで、面白いと気を取り直す。


「じゃ、目を開けててもいいよ」

そういうと もう一度 鹿瀬の顔に近づく。

「あ、でも眼鏡は取っていい?邪魔だから」

眼鏡も外すのか…、面倒だと思う鹿瀬。


スッと 高階に眼鏡を外される。


「きれいな目をしてる。確かにこの目を閉じるのはもったいない」


今度こそ 高階の唇が鹿瀬に重なった。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!