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運命の出会いの第一夜
+07+
 
「……いやぁ、面白そうだったからなぁ」

 そこには、しなやかで豊満な体付きが映える淡い紫のドレスを纏った妙齢の美しい女性がいた。
質のいいソファに優雅に寄り掛かりながら、この緊迫した空気を発する状況を楽しむように傍観している。
 けれど、今は深く青い瞳を宙に泳がせながら、その長く美しい金の髪を細く白い指先でいじっていた。
彼女こそがこの世界を統べる神、センティアなのである。
「っ……」
 そんな彼女の様子に怒る気も失せたのか、彼は片手でこめかみを押さえる。
 たったそれだけの理由で、彼女は仕事を押しつけられて忙しかった彼を誘き出したのだ。
「まぁまぁ、そんな顔をしないで下さいよ……スィーヅ」
 そして天使は口元に微笑みを浮かべたまま、少しだけ俯く。
「貴方が僕の身勝手に振り回されたことは承知していますから……」
 直後、それを聞いた彼はグッと唇を噛み締めた。
「では、何故……っ」
ちらりと天使を一瞥して戸惑いが隠せずに視線を彷徨わせた彼は、一呼吸置いた後、その白い袖に隠れた腕を掴んでぐいっと引き寄せる。
「……私に知らせてくれなかったんだ」
そして、その頬に手を添え、真っ直ぐに視線を合わせていた。

「ユイル、お前の口から『生きている』と……」

 その一言を聞いた瞬間、ユイルと呼ばれた天使は目を丸くして、信じられないようなものを見るように驚きの隠せない表情をしていた。
 けれど、我に返ったように、その整った口元にゆっくりと微笑みを浮かべる。
「……もう一度、言ってください」
 黄金色の双眸を細め、スィーヅの姿を映す。
 一方で、彼はハッと我に返り……普段は変化の乏しい表情を一変させた。
「貴方の口からそのような言葉が出るとは、夢にも思いませんでした……」
 穏やかな口調と共に言われた瞬間、ばっとその口元を手で押さえ、たった今自分の口から出た言葉が脳内で反芻する。
「っ……」
そして、スィーヅはすっとユイルから離れて視線を反らして目を伏せた。
「……今のは忘れろ。私の醜態だ」
 言うべきではなかった言葉。
 言えるような立場ではないとわかっていたのに、つい、言ってしまった。
 それほどまでに驚いたのだ。
 そして、今まで心の奥に封じ込めて蓋をしていた思いが弾け飛んだ瞬間だった。
 そんな中でユイルはスィーヅの気持ちを知ってか知らずか……その肩をポンッと軽く叩いた。
「残念ですが、嬉しかったので忘れてあげません」
 にっこりと意地悪く微笑んで自分よりも少し高い目線にある彼の顔を見上げる。

「遅くなってすみませんでした。僕はこうしてちゃんと、生きています」

 直後、その台詞を聞いたスィーヅは軽くその目を見開き……言葉に詰まった。
 けれど、諦めたようにその口元に弱々しい仄かな微笑みを浮かべ、

「……お前は本当に、余計なことばかり言う」

 力を抜いて項垂れるように、ユイルの肩に額をつけた。
「それが僕ですから」
 そしてユイルは微笑みながら、その背に手を回し、ポンポンッと慰めるように叩く。

「……すまない……っ」

 その声は小さくて、でもユイルには聞こえた。
 何に対して謝るのか。
 それを訊き返そうとは思わなかった。
 なんとなく気づいていたから。

「お前を、助けてやれなかった……」

 だから、ユイルは静かに笑んだ。
 それはどこか自虐的にも見える。
 残念ながらユイルは『天使』という道からは外れた者となっている。
 この世界にユイルという存在が赦されることはなくなったのだ。
 そしてそれを一番良く分かっているのは皮肉にも……ユイル自身なのである。
 それから二人はゆっくりと離れ、静かに見つめあう。
 ユイルはどこか寂しげな微笑みを浮かべ、スィーヅは口を閉ざし真っ直ぐに見下ろしていた。

「……だいぶ長居をさせていただきました」

 スィーヅから目を反らすようにユイルは彼の後ろにいるセンティアへと視線を向ける。
「それでは、センティア、また」
「ああ、またな」
 すっと頭を下げ一礼をするユイルを見据えながら彼女はふっと微笑む。
「ユイル、そしてシュガイア、御苦労だった」
 名を呼ばれた悪魔も頭を下げ、そのままユイルを促すようにその肩に手を置いて、身を翻した。



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あきゅろす。
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