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Serial novel ※オリジ
ウサギノ計画〜第三章〜
何の音も聞こえない。

日は暮れ、辺りはオレンジ色。

いつもなら、風の音やら鳥達のどこか寂しげな鳴き声やらが聞こえる。

ところが今日はそれらが全く無い。

あるのは風景だけ。

風景画の中の世界にでも入ったような気分になる。

アリスは行くあても無しに歩き出した。

が、すぐに止まった。

誰かがいる。

ウサギや猫じゃない。

他の住人の誰かだ。

どこにいるか分からない。

「…誰?」

前を向いたまま呼んでみた。

すると、ウサギの家の陰から修理屋のトカゲが出てきた。

そちらに向く。

「あぁ、アリスさんですか。ウサギさんはどちらへ?」

隠れていたという訳では無さそうだ。

「何だ…。何しに来たの?」

知り合いであるトカゲに安心する。

トカゲはいつもの青くて少し汚れた作業着で、手には修理道具が入った箱をさげている。

それをガチャガチャと鳴らしながら近づいてきた。

トカゲは24歳でアリスよりも一回り年上だ。

トカゲの髪は短いが緑色で目は黒い。

背は高いが、体がやや細い。

性格は軽い感じ。

声は年や身長の割に高い。

やたら白い肌がオレンジの日に照らされている。

トカゲはウサギの家によく来る。

アリスも何度も会ったことがあった。

いつものトカゲに安心して、アリスも近づこうとした。

「トカ」

「いやー今日はウサギさんに壁紙を張り替えてほしいって頼まれたんで」
















トカゲに向かう足が止まった。

トカゲはあはは、と笑う。

トカゲはよく笑うが、今のは不自然な笑いだった。

作り笑いのような…。

「…ウ、ウサギはいないよ」

アリスも笑顔を作る。

トカゲがウサギの家に来るときはいつもウサギがいる。

訪問前に、いるかどうかをちゃんと聞いておく、とトカゲから以前聞いた。

今日はトカゲからの連絡が無かった。

「…」

この男…。

「そうですか。ならまた後日、伺いましょうか」

嘘をついている。

「どうしました?アリスさん」

「…」

アリスがいつもと様子が違うのを察したのか、トカゲが首を傾げる。

じり、と一歩後ずさる。

トカゲは壁紙を張り替えに来たと言った。

だがトカゲの手には修理道具の箱しかない。

ウサギの家に壁紙らしき物も見あたらなかった。

ウサギも壁紙の事なんか何も言っていない。

トカゲはアリス目当てで来たのだろう。

「ね、ねぇトカゲ…」

殺される前に殺すために。



















「はい、何でしょう?」

トカゲは笑顔で聞く。

少し間を開けてアリスはもう一度トカゲに聞いた。

「何しに来たの?」

トカゲの眉がピクリと動いた。

…気がした。

「さっきも言ったじゃないですか。壁紙を張りか」

「本当は?」

アリスはトカゲを睨んだ。

「…」

トカゲは笑顔のまま黙る。

直ぐに返ってこない返事に、アリスは不安になる。

「トカゲ?」

トカゲはふぅ、とため息をつくと目つきが変わった。

まるで面を外したように。

「何だ。バレてましたか」

「!」

声が低い。

「作り笑顔は大変でしたよ」

「トカゲまで…私が嫌いなの?」

先程気づかずに近づいていたら今頃殺されていただろう。

アリスとトカゲの距離は約10m。

アリスの右手が包丁の柄に触れた。

「いいえ、嫌いではありませんよ」

トカゲは箱からトンカチと幾本の釘を取り出した。

アリスも包丁を取り出す。

「しかし…」

トカゲは釘をアリスに向けた。

「あなたは私達を殺すのでしょう?」

その言葉を言ったトカゲの表情は、悲しそうだった。

〜続〜

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あきゅろす。
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